男友達みたいな関係の女幼馴染が実は僕のストーカーだった件
「アサガオ!今日の英語の宿題やってきてるよね!!見せて?」
僕のことをアサガオと下の名前で呼び、今日の宿題をねだってくるのは――廻ツバメ、僕の幼馴染だ。
陸上部だけあって小麦色の肌に引き締まっているが出るとこは出ている健康的な体、肩まで伸びたゆるふわウェーブの髪。はつらつとした表情に除く八重歯がいたずらっ子を思わせる。
彼女の天性の人懐こさは男女ともに人気が高く……
「また、阿須内のとこだぜ、まったくツバメちゃんも物好きだよな。うらやましい限りだぜ」
「いいんじゃね?阿須内って種なしだろ?あの二人全く付き合うそぶりないし、逆にあの関係は嫌だわ」
こうやって、クラスの男子から嫉妬が渦巻く。
誰が種なしだ!僕にだって好きな女の子の一人ぐらいいる。
……ツバメに後輩の女の子を好きになったって話したときは「ノーチャンスすぎだろ!」って大爆笑されたが。
「ここ!!ここさっぱりわかんないから教えて!」
そんなことを考えているとツバメから声がかかる。
教室から目を戻すと鼻が触れそうな距離にツバメの顔があった。
そして、目を落とすとやや開いたワイシャツの胸元から豊満な谷間が見えていた。
「あたし、英語って何のためにやるのかわかんないんだよね~」
しかし、ワイシャツのボタンが一つ外れていることに気が付いていない御様子。いくら、気を遣わない間柄だって言ってもさすがに目のやり場に困る。
「おい……、ボタンはずれてる」
「あり?ほんとだ最近胸がきつくて、なんか無意識に外しちゃうんだよね~。また成長したかな?」
「また、だぞ。いい加減気を付けてくれ、さすがの僕でも目のやり場に困る」
「ええ~?アサガオもしかして意識してんの?初心だな~!」
「バカ言うな!ツバメのためを思って言ってるんだ。おい、ほっぺつんつんすんな!」
注意する僕をからかうツバメ。そして、それを怒りながらも許してしまう。
これが僕たちの距離感だ、男友達のように、いや、男友達よりも気を遣わないで良い関係。
何でも相談できるし本当に良い幼馴染を持ったものだ。
「宿題持ってけよ、次の授業中に写しとけ。」
「まじ!?サンキュ!」
「名前の部分書き換えて盗むなよ、お前それで前に全部バレて英語の先生にアメリカンな切れ方させてるんだからな」
「わ~かってる、写すだけ!んじゃ!借りてくわ!次の休み時間に返す」
そう言って、軽く手を振って自分の席に戻っていく。
(まったく、陸上部で忙しいのは分かるが、宿題くらいやって来いよ。あ~~、でも、ツバメは一人でできないか……。また今度勉強教えてやんなきゃな。)
去っていくツバメを見ながらそんなことを考えていると、机の上に小さな手帳が落ちていた。
黒い革細工の装丁に僅かに黒ずんだページ。
「なんだこれ?ずいぶん使い込んでる手帳だな……ツバメのかな?」
考えるとするならさっきじゃれた時にツバメが落としたってところか。しかし、あの脳筋が手帳なんか使うか?普段覚えるのがめんどいからって毎晩次の日の提出物を聞いてくる女だぞ?
それに、この革っぽい装丁……完全に男のものだ。
となると、誰か別の人のって考えるのが筋なんだが……だれだ?
友達が多くない僕は心当たりがまったくもって思い浮かばない。
(申し訳ないが少しだけ覗かせてもらうか……数ページだけ)
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△月×日
今日も学校しんどい、、、
けど勉強は大事だってあの人も言ってるし頑張んなきゃ
△月××日
部活めんどい~練習は好きだけど
今日はあの人と話していたい気分
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一週間程前の日記かな?
とりとめもないような内容、思ったことがただ簡潔に書かれていた。
よく出てくる『あいつ』という言葉が良く出てくること以外は薄い内容といっても良いほどの代物だ。
これじゃ、誰の持ち物なのか分からない。
しかし、続きを読み進めるとその考えを改めることになる。
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△月○日
あの人今日も自分の胸見てた。
気付いてないふりしてるけどマジでかわいい。
好き。好き。好き。好き。大好き。
大丈夫だよ、自分もあなたのこと見てるからずっとね。
△月×○日
今日この日20:12~20:35は天使の時間と呼んでもいい。
久しぶりに、あの人の部屋のカーテンが少し開いていた。
声を押し殺しながら覗いた。大変な素敵な光景を拝謁した。
獣欲が抑えきれなくなった。
△月□日
もうがまんできませ~~~ん!
おはしぺろぺろ~~ん!
うんおいしい!
たいそうふくすんっすんっ
いいにおい!
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日記は三日前のここで終わっている。
手帳が終わりに達したからだ。
そんな事よりも重要なのは三日前の内容。おはし?たいそうふく?そう言えば僕の体操着と弁当箱が一時間ほどロッカーから消えていたような気もする。
(気のせいかもしれないが……)
自分の気のせいではないとすると……。
仮に……仮にで考えてみよう。もし、自分が日記に出てくるあの人であったと仮定すると、僕の行動は監視されている。
つまり、ストーカーされている?
だが、確かに思い返してみると今までも一人でいるときに視線を感じることはあった。ストーカーされていると言われ、少し恐れる自分もいるが、どこか安堵し納得している自分もいる。
そうなると、この手帳の持ち主は誰だ?
(ぱっと、考え着くのは……)
健康的な美少女と言っていいだろう幼馴染――廻ツバメ。
今は必死に教科書で机の上を隠し、今日の英語の宿題を写している。
あいつならストーカだとしても……全面的に受け入れることはできないが、許してしまえるかもしれない。
(んなわけないか……、あいつとはただの幼馴染、親友以上に気が合って家族のように思ってるってだけ。それに、あいつなら日記に僕のことを"あの人"と書いたりしない、"あいつ"か"アサガオ"って書くだろうな。あの脳筋に日記をつけるという習慣があるはずもない)
馬鹿馬鹿しい仮定の話に鼻で笑ってしまう。そんな話がありえてたまるか。
それよりも手帳の持ち主も"あの人"も僕には関係のない人たちだと感がえる方が自然だ。
これは、持ち主が見つかるまで僕の方で管理して返そう。もちろん中身は読まずにな。
そう考えながら、学生カバンの中に手帳を入れる。
………
……
授業も終わり、ツバメと下校をしていた。
「珍しいな、ツバメと下校なんて」
「だね~、普段は陸上部があるからね~。でも、テスト期間だから部活休みなんだよね、にゃはは。あたしと一緒に帰れることを感謝しなさい。ボッチのアサガオ君!」
そう言いながら、からかってくるツバメ。
「誰がボッチだ。それよりも、ツバメはテストの準備大丈夫なのか?」
「そこつかれるといたいな~、あたしはスポーツ推薦だし?」
「まあ、そうだな。それでも勉強できて困ることはないぞ」
あんまり、知らないがツバメは県内の陸上競技を片っ端からトロフィー総なめにしている。応援しに行った時も走り高跳びで優勝していた。
それを思い出すとスポーツ推薦で進学を考える方が現実的かもしれないから、強く口は出さない。
「今日ごはん食べに行っていい?久しぶりにアサガオのごはん食べたいな~って」
ツバメが軽いいつものかんじで頼んでくる。
僕の家は両親の出張が多く、いつも僕は自分で準備している。それで、ツバメはよく一緒に食べに来ていて、今日も食べに来たいと言っているのだが。
「わるい、今日は家庭教師のバイトとその準備だ。ご飯はバイト先でもらうことになってる」
「えー、まじ?」
「まじも大まじだ」
「ぶー、さすがは学年一の秀才ですね!」
ツバメはご飯を食べられないと知ると悪態をついてくる。
「そんなに勉強して大変じゃないの?」
「なにが?」
「だって、いっぱい勉強する人に変態が多いとか、勉強するとムラムラしちゃうって話をよく聞くよ!」
そして、いつものようにからかってこようとする。
「誰だ、そんなこと教えたのは」と返そうとするが、その時、昼に拾った手帳のことを思い出す。
もしかして、こいつ僕の夜の生活についてかまをかけてきている?何かを探ろうとしている?
そう考えると疑いが止まらない。
「まあ、そうだな。ムラムラするときも多いかもな」
かまをかけ返す。
正直幼馴染みにこんなこと言うのは恥ずかしいが、僕の言葉に対する反応をみたい。
ツバメの一挙一動に注視する。
「ありー?やっぱアサガオも男子高校生だね、へーんたーい!にししー!」
いつもと全く変わらない、からかいの表情。
笑顔に少し悪戯っこが入ったような顔。その顔を見て確信する。
手帳の持ち主はツバメではない。
「冗談だよ、本気にするな、それじゃここまでだな。また明日」
「んじゃね~」
軽口を叩いていると、家につく。
軽く手を振り、お互いに別れる、隣同士の家に入っていく。
いつものように自分の部屋に戻り、家庭教師の準備をする。家庭教師とは言っても、勉強を教える変わりにご飯をだしてもらうという関係なので正確に言うとバイトではない。
教えている相手も同学年の女の子ということもあり、どちらかというと勉強会といった雰囲気が正しい。
「ま、それでもご飯もらう以上、準備はちゃんとしていくんだけど」
そんなことを考えながら問題集を解きすすめていく。
一時間ほど問題集と格闘した後で部屋の窓が気になり、おもむろにカーテンを開けて外を確認する。
「誰も見てないよな…?」
景色とはいっても向かいにみえるのは、ツバメの部屋の窓のみ。辺りを見回しても誰もいない。
杞憂だった。
どうやら僕は被害妄想が強いらしい。
さっと、カーテンをしめて、机に戻る。
机に戻り掃除をするためのティッシュペーパー、連絡するためのスマホを手に取り。連絡を返していく。
家庭教師に行く前のルーティーンだ。
そして、一通り準備を終えたあとに家を出る。
隣町にある家庭教師先の女の子の家へ向かうために。
バスと徒歩で20分くらい。
しかし、僕はバス停でUターンをする。
忘れ物をした?否!
予定を間違えていた?否!
走るに走り、自宅の扉を鍵であけ、自分の部屋へ一直線。
そう、胸の奥につっかかった予感を解決するためだ。
そして自室の部屋を大きく開け放つ。
「んん……くふぅ、アサ……アサァ…ん。好きぃ、好き。」
「おい、僕の部屋でなにしてんだ!!」
そこには、服を脱ぎ捨て僕の布団にくるまり、あまつさえパ、パンツを頭に被っているツバメがいた。
「それ僕のパンツだろ!なんで頭にかぶってんだ!」
「ひゃあーー!ち、違う。これは違う!!てか、分かんない。ここどこ?わかんない!パンツって何!これ最近の流行りの帽子だし!」
「ツバメ……それ本気で言ってんのか?」
そう言うとツバメはしぶしぶ頭からパンツを外した。
「ツバメ……目のやり場に困るから服を着てくれ」
そして、脱ぎ捨ててあったツバメの制服を差し出す。
「はあ?服ぐらい着てるし!」
「ちょ!まて!」
ツバメはくるまっている僕の布団を勢いよく脱ぎ捨てる。
そして、僕の体操服を着ているツバメが姿を現した。
男性用の伸縮性がある体操服なのに胸の部分がぱつぱつになっている。かなり無理矢理来ただろ、それ。
「裸かまよったけど、お宝があったから!ぎりぎりでお宝を見つけたおかげで裸じゃないもん!はー良い匂い」
「どっからつっこんでいいか分からねーよ!」
もしかしてとツバメを疑った自分を恥かけたが、名探偵だったようだ。
「だいたい今日バイトって言ってたじゃん!それに窓から覗いてるのもばれてなかったはず!」
「やっぱりお前だったか!罠を仕掛けておいて良かった」
勉強後に一度カーテンを開け、周囲を確認し、そして少し閉め忘れる。
こうするとどうなるか?
そう、ストーカーは僕がこれから一人でいたそうとするかもしれないと考える。
そして、机の上に用意したティッシュペーパーと右手のスマホ、カーテンの隙間から僅かに見えるそれらによって予感は確信に変わるだろう。
そして、その時にバイト時間変更のメールを送る。
家を出る振りをすれば、作戦は完成だ。
ストーカーがツバメであれば鍵を閉め忘れた振りをした窓から僕の部屋に侵入するだろう。
「はあ!?アサガオってばあたしが十年間も色々してたの気づいてたってわけ?」
「じゅ……十年間」
十年間どころか部屋に戻ってくるまで、ツバメのツの字も感じ取れていなかった。ツバメ!恐ろしい子!
そうだ!それだけじゃない。僕にはもう一つ聞くことがあった!
まあ、もうここまで来ていれば、【聞く】ではなく【確認する】が正しいかもしれないが。
僕は鞄から最後のキーを取り出す。
「これ、ツバメの手帳だろ?」
「……」
ツバメは無言だ。そうだろうな、ツバメだってバレてると思ってなかったから、今日こんな大がかりな犯行に至ったのだろう。
「どうだツバメ?」
「………」
「黙ってちゃ分かんない。正直に話してくれるんだったら僕だってツバメのこと……」
「知らない」
落ち着き払った声でツバメが返答する。
「いや、知らないってな!そんな言い分が……」
「まじで知らない、ちょっと見せて」
「あ!おい!」
ツバメは僕の手から手帳を奪いとり、ペラペラとページをめくる。
そして、数秒後血の涙をながし始めた。
「くすん、くすん。ひぐ!これ、完全にアサガオの予定と一致してる。四日前の8時にアサガオお○にーしてたんだ!」
「ば、ばか!それは関係ないだろ!」
「その反応まじのやつだ……、くそお、部活さえ、あの居残り部活さえなければ……あの監督め!くそお!くそお!」
ツバメは悔しさのあまり、布団をかきむしる。おいやめろ。それ僕の布団だぞ。
でも、確かに落ち着いて考えてみれば四日前にツバメが夜ご飯を食べに来たのは十時を過ぎていた。
嘘である可能性も否定できないが、部活の監督に聞けば一発だ。そんなすぐばれる嘘をつくはずもない。
それに、嘘でこんな馬鹿みたいな血の涙を流せるか?
「じゃ……じゃあ誰なんだ!」
「分かんない……分かんない、けど!あたしのアサガオにこんな辱しめを受けさせた罪!絶対償わせてやる!」
「だからさ……」
ツバメが両手の指の先をあわせ、もじもじとしだした。
「あたしと付き合わない?そんな変態に狙われて、アサガオが心配だよ!彼女としてアサガオを守らせて!」
そして表情をくずす。
「そしたら、毎晩アサガオの新鮮な私物を、げへ、げへへ……」
だめだこいつ。
僕は部屋からぽいっ☆とツバメ投げ捨てる。
「あーん!待ってよー!違うから今のは口が滑った……じゃなくて思ってもいないことだから!ねえ、あたしアサガオの体操服のままなんだけど!」
阿須内アサガオの受難は続く。
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