第7話 【冒険の準備】
計画が決まった咲楽は再び異世界プレザントを救うべく、冒険の準備を始めました。
「女神様。前の旅と同じように、私がプレザントにいる間は地球の時間を止められますか?」
『はい、可能ですよ』
「よかった。それならいつでもプレザントへ向かえます」
咲楽は学生です。
学業と異世界冒険を両立させるのは物理的に不可能なので、前と同様時間停止が必要でしょう。
「すごいですよね、女神様。どうやって時を止めてるんです?」
『そうですね……地球とプレザントは別々の歯車で時を刻んでいますので、サクラがいない間だけ地球の歯車を止めているのです』
「なるほど~?」
咲楽はなんとなく理解します。
プレザントに転移したり記憶を封印したりと、女神様の神力や加護についてはプレザントの人たちも理解できない未知の魔法。通常の魔法ですら理解できない咲楽は深く考えないことにしています。
何はともあれ、これで日時は問題なしです。
「次は転移先ですね…」
プレザントは大きく分けて四ヵ国あり、咲楽と共に冒険した八人の仲間たちはバラバラの国で生活しているので何処に転移しても会えます。
それでも咲楽は最初に向かう国を決めていました。
「女神様。転移先なのですが、ハルカナ王国にしたいです」
『………あの、申し上げにくいのですが』
「はい?」
『サクラが最初に転移した荒れ地を覚えていますか?』
「はい、酷い目に遭いましたから」
『あそこ以外は無理です』
「………」
唖然とする咲楽。
最初に女神様が咲楽を転移させた場所は、魔物が生息する荒れ地のど真ん中でした。そこで咲楽は魔物に追い回され怖い思いをしています。
『あそこにしか転移用の像がないのです』
「え?でも各国には女神様の像がたくさんありましたよ!大きいのが!」
『あれは信仰を集めるだけで、転移を用途に作られていないのです』
「なら、転移用の女神像を新しく作れませんか?」
『今の神力だと難しいです…すみません。憎食みの件では必死でしたので、場所を選ぶ余裕がなく…』
「そんな…」
それだけで咲楽の旅は一気に困難になりました。荒れ地から最も近い国はハルカナ王国ですが、徒歩なら数日はかかる距離です。
「なら…途中の孤児院を経由しましょう」
今回の冒険は、奇しくも最初の冒険と同じ道のりを辿ることになりそうです。
※
咲楽が目指す孤児院までは、転移先から徒歩三時間ほどで到着します。なので軽装備でも問題なく目的地に到着できるでしょう。
…そんな甘い期待を、冒険経験者である咲楽はしません。
冒険では何が起きるかわかりません。予期せぬ事態で足止めを食らえば、野宿をする可能性もあります。旅の準備は入念にしなければなりません。
「そういえば、お父さんにキャンプの趣味がありましたね…」
咲楽はリビングに向かい、ソファーに座ってテレビを観ているお父さんに尋ねます。
「おとーさん、キャンプ道具とかって借りていい?」
「おお、キャンプか!?どこに行きたいんだ?」
「えっと………華々山だよ。ほら、近くにある」
「いいじゃないか!実は咲楽用のキャンプ道具一式揃ってるんだぞ!」
「そうなの?」
「一緒にキャンプしたくてな!こんど母さんと三人で行くか?」
「いいね、春休みになったら行こ~」
咲楽とお父さんは親指を立ててキャンプの約束をします。
少し嘘をついた罪悪感はありますが、咲楽は地球の旅道具をゲットです。キャンプ道具にはテントに寝袋、ナイフに調理器具一式など、旅で必要な道具が揃っていました。
しかし、これだけでは魔物が跋扈する世界を冒険するのは危険です。咲楽は自室に戻り、物置にある大きなダンボールを引きずり出します。
「よいっしょ!……懐かしいですね」
箱の中にはプレザントの思い出がぎっしり詰まっていました。一年間咲楽を支えてきた装備品の数々、これらを再び使う時が来たのです。