第6話 【女神様と作戦会議】
夕食を済ませた咲楽は自室で女神様と作戦会議を開きました。因みに女神像は家に持ち帰り、机の上に祭られています。
「女神様、まず状況を整理したいのですが」
『はい…その前にサクラ、この赤い果物はなんです?』
咲楽はデザートで余った苺を女神像の前にお供えしていました。
「地球産の苺です。お供え物なのでよければお納め下さい」
『はぁ…』
プレザントには存在しない果物なので女神様は困惑していましたが、咲楽に促され五つある苺の一つを光で包みこみ消します。
「それで根本的な話、私がプレザントに転移することって可能ですか?」
そのまま作戦会議を続ける咲楽。
『はい。記憶封印のおかげで信仰は順調に回復していますので、転移魔法は数回なら使用可能です…パク』
「おお、よかったです」
まず大前提であるプレザントへの転移が可能になり、咲楽は安堵します。
「次に私の仲間たちだけ、記憶の封印を解除することって出来ます?」
『もぐもぐ……それはどれくらいの人数でしょうか?』
「そうですね、十数人くらいですかね」
『ええ、それくらいなら大丈夫です。もう私の負傷は回復したので、細かい力の操作が出来るようになってきました』
「ありがとうございます!仲間たちにはちゃんと女神様を信仰するよう伝えますね」
『ふふ、ありがとうございます。もし旅先で自分のことを思い出してほしい人と出会えたら、その場で封印を解除することも可能ですよ』
「そうですね…何人を候補として保留にするので、神力に余裕が出来たらお願いするかもしれません」
記憶封印に関する事情はかなり複雑です。
今回の咲楽は自分の正体や女神の証は隠さなければならないでしょう。世界を救う旅のように咲楽が知名度を上げてしまったら、また記憶封印が必要な状況になってしまうかもしれません。
「次に、プレザントに地球の道具を持ち込んでもよろしいでしょうか?」
『道具ですか?……もぐもぐ』
「食材や石とか木材とかです」
『ええ、構いませんよ………イチゴもいいですよ?』
「…美味しかったですか?」
『はい、控えめに言っても最高です』
お供えした苺は全て消えてなくなっていました。
苺には当たり外れがありますが、今回の苺は大当たり。酸味と甘みが強く、瑞々しくてジューシーです。プレザントにある謎の果物より圧倒的に美味しいでしょう。
『そ、それよりサクラ。そろそろサクラの考えている対策を教えてくれませんか?』
女神様はまだ咲楽の魂胆がわからず焦っています。そして咲楽は、アイデアを試すために必要な条件をクリアし小さな笑みを浮かべました。
「まずですね、プレザントには心を癒す物が少ないのです」
『癒す?』
「はい。地球と比べると、ですが」
咲楽はプレザントの思い出を振り返ります。
プレザントで酷かったのは食べ物だけではありません。咲楽が好きなゲームはもちろんのこと、音楽やスポーツといった娯楽文化がほとんどありません。全ての人々が戦争の中で生き残ることだけを考えていました。
いわゆる“楽しい”という概念が抜けているのです。
「楽しいことは仲直りのきっかけにもなります。なのにプレザントには楽しい物がほとんどないんですから、戦争で傷ついた心も治りません」
『でも…どうすれば?』
「なので、少しズルをするのです」
『?』
咲楽は机の引き出しの中から一つのアイテムを取り出します。それは地球人なら誰もが知る有名なカードゲーム、トランプです。
しかし、トランプはプレザントには存在しません。
「地球にある楽しいアイテムを使って、プレザントの人たちを癒して“国おこし”させるのです!」