第53話 【キユハと再会①】
キユハは何とか日が沈む前に研究所に帰ってこれました。
「はぁ…」
心底疲れた息を吐いてキユハは衣服を脱ぎ散らかします。
キユハにとっての外出は研究以上に疲れる行為です。それも研究所はハルカナ王国の最端にあるので、中心にある士官学校まで行き来するのは苦行でしかありません。
(もう士官学校に通うのやめようかな…)
今の状況を不満に思いながらも、キユハは研究機材の前に腰を下ろしました。
「女神石研究、再開させないと…」
どんなに疲れていても体力が残っている限りキユハは研究を続けます。
(とはいっても、どん詰まり状態なんだよな……今の僕はサクラのことや女神石を生み出した経緯も思い出したけど、あれは偶然の産物に過ぎない。偶然でも現物が生み出せれば研究は進むと思ってたけど、そう簡単にはいかなかった…やはりサクラがいないと研究が進展しない)
キユハの研究は変わらず進展していません。やはり女神石研究の進展には、咲楽の存在が必要不可欠なのだとキユハは悟ってしまいました。
(…クスタが言うには、サクラが来るかもしれないんだよな)
そう思うキユハですが、すぐ我に返ります。
(醜態…僕も情けない。研究が滞ってるからってクスタの妄言に踊らされるなんて)
咲楽が来るかもしれない。
研究中にそんな雑念を考えるのは、研究に集中できていない証です。このままでは不味いと考えたキユハは研究を中断し本の山に体を倒しました。
(不毛、寝よう…寝て起きたらなんか思いつくだろう)
外はまだ日が差していますが、キユハに生活リズムを守るという習慣はありません。研究にどん詰まった時は睡眠に限ります。
(…またサクラの夢を見れるかな)
そんなことを考えながら、キユハは瞼を閉じました。
※
キユハは咲楽の夢を見ました。
それはまだ咲楽とキユハが出会ったばかり、まだお互いに心を開いていなかった頃の夢でした。
(当時の僕はサクラの持つ女神の力だけに興味があった。僕は女神の研究を進めたくてサクラの冒険に同行した)
キユハは過去の自分を眺めながら、その頃の心境を思い返します。
(研究以外に他意はない。サクラの世界を救う旅なんて興味ない。世界や他人がどうなろうが、僕の知ったことじゃないから)
研究以外に興味はない。
今も昔もキユハの考え方は然程変わっていません。
(なのに、いつからだろう…僕がサクラや仲間のことを第一に考えるようになったのは)
変わったとすれば、キユハに仲間意識が芽生えたことくらいでした。その意思が引きこもりだったキユハを士官学校の研究所まで足を運ばせるのです。
それが研究の足を引っ張ることだとキユハは分かっています。それでもキユハは、この咲楽との思い出を手放すことはしませんでした。
※
「…ん?」
キユハは目を覚ましました。
日は沈み、外は真っ暗になっています。
そして…
「すぅ…」
キユハの隣で咲楽が寝ていました。
咲楽を見て目を丸くするキユハ。
「おい」
キユハが声をかけてもほっぺをつまんでも咲楽は起きてくれません。
(…まさか本当に来るとは)
キユハは少し驚きましたが、すぐ冷静さを取り戻します。まだ起きそうにない咲楽を見てキユハは被っていた毛布を咲楽にかけてあげました。
「おかえり…」
ボソッと呟くキユハ。
それは咲楽が起きていたら、素直に言えない一言でした。
「…ん?」
するとキユハは、咲楽が寝る前に読んでいたであろう本に目が留まります。それはキユハの研究所にあった本ではありません。
「これは……サクラの世界の本か」
本を手に取り中身を確認するキユハ。
中身は咲楽の国の言語、日本語で書かれていました。
(難題、難解…サクラから“ひらがな”は軽く教わったけど、この“かんじ”はほとんど読めない)
探求心の強いキユハは、前の旅で咲楽から地球の知識を可能な限り聞き出していました。日本語も難しい漢字を除けばほとんど習得しています。
(お…こっちは言葉の教材か?)
それからキユハは、咲楽が持ちだした教材を夢中になって読み漁りました。




