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第48話 【アクリの戦果】




 魔物の殲滅が完了し、騎士たちは死傷者を出さず事なきを得ました。


「テオール殿、救援感謝します!」


 ナスノはテオールに向けて深々と頭を下げます。


「視察のつもりで戦力を抑えたのが仇となりました。まさかこの近辺で生息しないモータルバードに目を付けられるとは…」


「汚れた魔物に自然界の常識は通用しないようだな。今後の課題として記録しよう」


「それにしても、たまたまテオール殿が通りかかるとは…助かりました」


「私の訪問は内密にしたかったのだがな…」


 テオールは面倒くさそうに長い髪を束ね、帽子の中に無理矢理押し込んでいました。


「いえ、この戦果は記録に残しましょう。騎士たちを救ってくれた恩人として」


「…はぁ」


 ナスノの返答にテオールは少し不服そうに息を吐きます。

 まだハルカナ王国では帝都フリムに対する悪い印象が消えていません。だからテオールは変装までして入国の準備をしました。

 ですがテオールが汚れた魔物に追い詰められたハルカナ騎士を援護し助けた戦果は、心証回復に役立つでしょう。


「ところで…あの少女についてなのですが」


 ナスノは遠くでグリフォンの首元を撫でる咲楽に注目します。


「あの少女は何者です?魔物を従えるなど、プレザントの歴史上でも聞いたことがありませんが」


「ナスノはサクラを覚えていないのか?」


「サクラ……リアが言っていた少女のことですかね」


「リア団長はサクラを覚えていたか…いや、思い出したのか」


 テオールは改めて、この奇妙な現象について考えさせられます。


(やはりこの歴史改変、妙だ。サクラは自然現象と言っていたが、作為的なものを感じる)


 思い出した者、思い出さなかった者。

 この二つの存在には意味があり、思い出した自分には役割があるのだとテオールは考えます。その結論は当たらずとも遠からず、咲楽と女神様の思惑に近い回答でした。


「世界を回る旅人らしいぞ。魔物を従えている理由は知らん」


 テオールは咲楽の正体を話しても無駄と悟り、曖昧な答えを出します。


「不思議な少女ですね…」


 そして咲楽を思い出していないナスノからしたら、咲楽に対する疑問が増える一方です。英雄リアに帝都フリムの軍師とまで接点があり、決して人間に従わない最強格の魔物を手なずける若き少女。その存在はあまりに異質でしょう。


「それと、あのグリフォンに乗っていた少女は?」


 疑問が尽きない咲楽は後回しにし、ナスノはアクリを指さします。


「ただのハルカナ国民らしいぞ」


「ほほう?」


 そう聞くや否や、ナスノはアクリの元に駆け寄りました。


「そこの少女、救援感謝する」


「え…は、はい!」


 憧れの騎士隊長ナスノに称えられ体を強張らせるアクリ。


「随分と若いけど、冒険者?それとも騎士志望?」


「いえ、見習い冒険者です。私には士官学校に通うお金がないので…」


「…思わぬ逸材を見つけたね」


 ナスノは嬉しそうにアクリを観察します。


「よし、君を特待生として士官学校に迎えよう」


「えええ!?」


「その若さで汚れたモータルバード討伐は快挙だ。立場に縛られず君のような金の卵を育成することが、ハルカナ士官学校の教育理念さ」


「………」


 夢にまで見た騎士への道が用意され、アクリの鼓動は高鳴ります。


「卒業したら私の隊に推薦するから、忘れないでね~」


「はい!是非、お願いします!」


「うむ、良い返事だ」


 こうしてアクリの戦果は想像以上のものになりました。

 壮絶な経験を一度に体験したアクリはまだ心の整理が出来ていません。それでもアクリは咲楽に伝えたい一言があります。


「あ、あの…サクラお姉ちゃん!」


「はい?」


「そ、その………あり…っいたたたたた!?」


 言葉を言いかけたアクリは、急に絶叫するや地面に伏せ悶絶しました。


「あー、強化魔法の副作用がでましたね」


「ど……どいゆう…こと……?」


「何と言いますか、無理しすぎたということです」


 強化魔法(中)には副作用があります。

 身体能力を急激に強化してしまうので、効果がなくなると肉体が悲鳴を上げ酷い筋肉痛を引き起こしてしまうのです。


「大丈夫ですか?」


「うぅ……痛い…けど、気分はとてもいいよ…」


「…お疲れ様です、今は休んでください」


「……うん」


 咲楽はアクリをおんぶします。


「馬車がありますので負傷者の方と…アクリちゃんを乗せてあげましょう」

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