第4話 【咲楽の学校】
私立華岡学園。
設立200年の歴史があるこの学校は、最新鋭の設備と広大な敷地面積が特徴です。
咲楽は自分のクラスである2-1の教室に到着しました。異世界から帰還し中等部の入学式を終えてから一年、学年は二年生に上がっています。
「おはよーございます」
教室の扉を開けみんなに挨拶をする咲楽。
「おはよー田中ちゃん!」
「おっす田中!」
「お…おはよー田中さん」
咲楽の挨拶に男女問わずクラスのみんなは挨拶を返してくれます。学年が上がりクラス変えがあったばかりなのに、このクラスには仲間外れの生徒は一人もいません。
「咲楽ちゃんおはよ~」
「おはようございます」
咲楽が自分の席に向かうと、両隣の席に座る友達が迎えてくれます。
陽気に挨拶する向日葵。
本当は向日と読むのですが、クラスでは“ひま”と呼ばれています。
短髪が似合うボーイッシュな女の子。スポーツ万能で多くの運動部の助っ人に登場し、あらゆる種目のエースを負かしてきた超人です。
礼儀正しく挨拶するのは雨宮つつじ。
眉目秀麗、成績優秀。テストはいつも学年トップ。立派な豪邸に住むお金持ちで、小学生の頃にピアノのコンクールで賞をとったこともある絵に描いたようなお嬢様です。
「おはようございます~」
咲楽は気の抜けた笑みで挨拶を返します。
入学してから学年が上がっても、ずっと付き合いのある仲良し三人組です。
「咲楽ちゃんってすごいよね~」
咲楽が席に着くと、隣の葵が話しかけてきました。
「もう新しいクラスのみんなと仲良くなって」
「そうですかね?普通に話しているだけなのですが」
「話したことのない人に話しかけるのってなかなか出来ないよ」
葵の言葉につつじは頷きます。
「ええ、咲楽さんの話術には感心します」
「あはは…ありがとうございます」
「…たまに空気読めない時もありますけどね」
つつじがボソッと聞き捨てならないことを呟きました。
「え?そんなことないですよ」
世界を救う旅を得て、空気を読むことに関して自信を持っていた咲楽は反論します。
「でもさ、この前告白された時はナチュラルに躱してたよね」
咲楽の反論にツッコミを入れる葵。
「告白なんかされましたっけ?」
「ほら、前に男子から付き合ってほしいって言われたのに…」
「あれは買い物に付き合うって意味でしたよ」
「………」
「………」
咲楽の反応に苦笑いを浮かべるしかない葵とつつじでした。
※
咲楽は部活には所属していません。
放課後になれば真っ直ぐ家に帰るのですが、葵とつつじが暇をしていれば三人で教室に残って長々とおしゃべりをしています。
「葵ちゃんはいろいろな運動部で活躍してますが、一番好きなスポーツって何ですか?」
「なんでも!強いて言うならボールを使う競技かな」
「羨ましいですね…私は葵さんのように体が動かないので」
「つつじちゃんはピアノが上手ですよね」
「だよね~。先生はピアノの才能があるって絶賛してたし」
「実は今、バイオリンに挑戦しているのです」
「おおー!なら今度聞かせてください!」
「ええ、いいですよ」
「羨ましいです、葵ちゃんもつつじちゃんも特技があって」
「咲楽ちゃんが言うんだ…」
「咲楽さんが言うんですね…」
「あれ?」
三人は夕暮れに染まる教室で、他愛もない会話をしながら笑顔の花を咲かせています。あの異世界での大冒険が嘘のような平和です。咲楽はこんな平和な毎日を送る当たり前を、幸せに感じていました。