第46話 【テオールと咲楽の援護】
テオールは丘の上に立ち改めて戦場を確認します。
「ナスノ隊の他は…ツクメ隊、キアン隊か。戦力は十分だな」
ナスノは自分の隊を含める三隊編成で出動していました。
負傷者はツクメ隊の二人、その隊を庇いながらロックウルフと睨み合うナスノ隊。キアン隊は離れた位置でロックウルフに囲まれている状況です。
「すぅ……」
テオールは帽子を捨て、長い銀髪を靡かせながら大きく息を吸います。
「聞け!ハルカナの騎士共!」
隣にいた咲楽とアクリが思わず耳を塞ぐほどの声量で、テオールが指示を飛ばします。騎士たちは急に空から指示が飛んできて困惑していますが、テオールはお構いなしに続けました。
「これよりこの戦場は私が指揮をとる!ナスノ隊は全員で負傷者を援護し、ツクメ隊の戦える者はキアン隊と合流し守りに専念せよ!魔物は私の隊が殲滅する、それまで耐えろ!」
騎士たちは遠目からでも、その長い銀髪を見れば誰が指示を飛ばしているのか分かります。
かつて敵であったテオールの指示を聞いて騎士たちは顔を見合わせ混乱していましたが、ナスノはすぐ騎士たちに指示を飛ばしテオールの言う通りに騎士を動かしてくれました。
「素直だな…敵国軍師の指示に従うとは」
「今はもう仲間じゃないですか」
「…はぁ」
重苦しい溜息を吐くテオール。
生まれた時から終戦に至るまでずっと敵だった者たちに、こうして生き残るための道を提示しているのです。自分の価値観を無理やりひっくり返された気分でしょう。
「ところで、テオさんの隊って?」
咲楽は辺りを見渡しますが、この場にはアクリと馬車の御者さんしかいません。
「忘れたのか?私は何時でも忠実な部下を揃えられる」
「あ…」
指揮が取り柄のテオールが戦場でどう戦うのか、咲楽は思い出しました。
“水の精鋭、私の前に集え”
テオールは魔法を詠唱し指揮棒を前に掲げます。
すると指揮棒に埋め込まれた水の精霊石から大量の水が流れ、水は人の形に象られていき二十体もの水騎士となりテオールの前に集いました。
「私も援護します!」
“強化魔法(小)”
咲楽も協力し、テオールの水騎士と指揮棒に魔法をかけます。
「…!」
強化魔法により水騎士の数が四十体まで増え、一体一体に流れる水の勢いも激しくなりました。
咲楽の加護を受けたテオールは驚きます。
「…数が倍になっただけではなく、水騎士一体一体の強さが騎士隊長クラスに匹敵するまで引き上げられている。相変わらず常識外れな力だな、女神の権能は」
「他力本願で申し訳ないですがね…」
「何を言う、誇りに思え。サクラはその力と勇気で世界を救ったんだぞ」
弱腰な咲楽を叱るテオール。
テオールは咲楽がもつ力を心から尊敬していました。自分よりも強大な相手に立ち向かう勇気、バラバラだった国々を統一させた仲間との信頼関係。それは女神の加護では得られない咲楽自身の力です。
「……はい。私は私にしか出来ないことを、全力でやらせてもらいます!」
「ふ…その意気だ」
立ち直った咲楽を見てテオールは不敵に笑い、指揮棒を振るって水騎士を進軍させます。強化された水騎士の軍勢は次々とロックウルフを討伐していき、劣勢だった戦況があっという間に優勢へと変わりました。
「…」
討伐されるロックウルフを見て、咲楽は胸に手を当て目を逸らします。
「どうした?サクラ」
「汚れた魔物に利用された狼の魔物。平穏に暮らしたいだけなのに、こんな戦いに巻き込んでしまって……やるせないです」
「……魔物にまで同情するのか、お前は」
プレザント人で魔物に対して感傷的になる者は稀でしょう。
たとえ相手が無垢な魔物でも、汚れた魔物に利用され命を落とす魔物たちに咲楽は心を痛めていました。
「だったら、元凶を断たねばならんな」
「…はい」
咲楽とテオールは空を見上げます。
狩りの邪魔をされた汚れたモータルバードは、空高くから咲楽たちを睨んでいました。




