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第40話 【通りすがりの馬車】




 魔物たちの話し合いを終え、クロウとソウカクは解散することになりました。

 その二体はまず同族に咲楽と精霊の支援を得られたことを伝え、他にも共闘の意思がある種の魔物がいないか探し回ることになるでしょう。今は汚れた魔物の動向を観察しながら同士を集めることが先決です。


「さて…体調はどうですか?アクリちゃん」


 咲楽は土家に戻りアクリの様子を確認します。


「う…大丈夫…」


 アクリはフラフラと立ち上がります。

 回復したとはいえ重症を負い死ぬ間際まで追い詰められた後なので、心も体も覚束ないようです。


「…あの、汚れた魔物は?」


「あのまま放置していますよ」


 二人は外に出て討伐した汚れた魔物を確認します。

 汚れたワイルドボアはノームが生み出したゴーレムに捕縛されており、ちゃんと止めを刺してありました。


「このまま土に還しちゃいましょう」


 そう言って手を合わせてワイルドボアの冥福を祈る咲楽。


「あ……うん」


 アクリは何か言いたげにモジモジしています。

 そんな曖昧な反応を咲楽は見逃しませんでした。


「あの魔物の角、持って帰ったら討伐証明になりますね」


「…!」


「持って帰ります?」


 ワイルドボアの角は黒く汚れています。

 持って帰れば汚れた魔物討伐の証になるでしょう。アクリは「倒さないと認めてもらえない」と言っていたので、目に見えた成果が欲しいのならと咲楽はそう提案したのです。


「………ううん、私が討伐したわけじゃないから」


 悔しそうに俯くアクリ。


(この歳なのに、真面目でいい子ですね)


 あまりにも無謀が過ぎるアクリですが、咲楽はズルをせず勇気をもって汚れた魔物に立ち向かった雄姿を称えます。


「家はハルカナ王国ですよね?」


「うん」


「なら一緒に行きましょう、護衛しますよ」


「ごめんなさい…いろいろ」


「いえいえ~」


 こうして咲楽はノーム、アクリと共にハルカナ王国を目指して旅を再開させました。





 歩き始めて数十分。


「休憩します?」


「まだ…大丈夫」


 三人はなんとか整備された道まで辿り着きましたが、アクリの足取りはフラフラと揺れ安定しません。そろそろ休憩を挟むべきだと咲楽が考えていると、丁度良く馬車を発見しました。


「あ、馬車。お~い!」


 咲楽は大きな声で馬車に手を振ります。

 馬車を操縦する御者さんは、咲楽に気付き馬車を止めました。


「すみませーん!疲れている子がいるので、乗せてもらえませんか?」


「なに?そりゃ大変だ、ちっと待っててくれ」


 御者さんは馬車から降り、裏側に回り馬車の中を確認します。


「…ってことでいいですかね?」

「同席は断れ」

「いや~流石に子供は捨て置けませんよぉ」

「……はぁ」


 どうやら他の人が馬車に乗っているようです。馬車の中から微かに聞こえる嫌そうなため息に、咲楽は少し気まずさを覚えます。


「ノームくん。後は私一人で大丈夫なので、護衛はここまででいいです」


「わかった。また用があったら遠慮せず呼んでね」


「ありがとうございます。報酬の寝袋を渡しますね」


「わーい、サクラ好き~」


 ノームは寝袋を受け取り、人の目につかないよう実体化を解いて大地の中に消えました。ここで精霊ノームの出番は終了です。


「あれ?さっきの男の子は?」


 唐突にノームがいなくなりアクリはキョロキョロしています。


「一人で帰っちゃいました、彼は忙しい身ですからね」


「…あの人は何者だったの?あの若さであれだけの魔法を使えるなんて」


 アクリから見れば、ノームは不思議な存在だったでしょう。

 格好もプレザントの人から見れば妙で、外見年齢はアクリと同じくらい。汚れた魔物を討伐したあの魔法は、そんな幼い子供が使えるような魔法ではないからです。


「…私も詳しくは知らないのです」


「仲間じゃないの?」


「偶然出会った旅の道連れですよ」


 適当に誤魔化す咲楽。

 あの少年が神話に登場する精霊ノームであることを説明しても信じてはもらえないでしょう。仮に信じたとしても、それなら一緒にいる咲楽が何者なのかでまた話がややこしくなります。


「待たせたな嬢ちゃんら、乗りな」


 話を済ませた御者さんが咲楽の元に駆け寄ります。


「いいんですか?」


「おう、ここで子供を見棄てたら御者の名折れさ。ただ同席する御方は結構な重鎮だから失礼のないようにな」


「すみません…お邪魔します」


 御者さんに促され馬車に乗り込む咲楽とアクリ。

 馬車の中では、平民の格好をした女性が不服そうに腕を組んでいます。咲楽はその人に見覚えがありました。


「………もしかして、帝都フリムのテオールさん?」


「…ふん、私を知っているのか」


 名前を言い当てられたテオールは咲楽を睨みます。

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