第38話 【汚れた魔物と普通の魔物】
グリフォンとベヒモスが土家から出て来た咲楽を睨みます。
「ひぃ…」
その巨体を間地かで見た咲楽は、慌てて土家に隠れました。グリフォンとベヒモスはどちらもプレザントにある弱肉強食の頂点に位置する魔物です。
「大丈夫だよサクラ、もしサクラに危害を加えたら種ごと滅ぼすって警告したから」
「…物騒ですよノームくん」
咲楽は土壁から顔を覗かせると、グリフォンとベヒモスは腰を下ろし敵意がないことを示していました。
「ギィ、ググィ、チッ」
「?」
グリフォンが咲楽に向けて鳴き声を放っています。もちろんですが咲楽は魔物の鳴き声を理解できません。
「女神様の代行、汚れた魔物の討伐感謝します………だってさ」
その内容をノームが通訳してくれます。
「ノームくん、魔物の言葉がわかるんですか?」
「何年も観測してればね~」
グリフォンとベヒモスが鳴き声を続けます。
「女神様の代行、汚れた魔物殲滅の救援を求めます」
「我々は、精霊様の力が必要」
「汚れた魔物、存在してはいけない生物」
「我らは異種族で共闘の意思があります」
「しかし、共闘の意思は伝わるも言葉が伝わらず」
「精霊様に異種間での通訳をお願いしたく思います」
そしてノームが魔物の鳴き声を通訳してくれました。ここまでの話を聞き、咲楽はグリフォンとベヒモスの意図を理解します。
「つまり…グリフォンもベヒモスも汚れた魔物を倒すため、種の壁を越え共闘しようと考えているのですね」
汚れた魔物は人里離れた場所に現れるので、人間側からしたら大きな問題にはなりません。ですが間地かで生息する魔物側からしたら迷惑極まりない存在でしょう。
魔物が共闘したがっている事実はノームも知らなかったことです。
「魔物に共闘の意思があったなんて初耳だ。強い魔物ほど、けっこうプライド高いからね」
「へぇ…やはり共通の敵が現れると、プライドよりも生き残ることを優先するのですね」
つまるところ“敵の敵は味方”ということです。
(種は違っても、共通の敵を前に手を取り合う…まるで憎断ち戦争みたいです)
憎断ち戦争も憎食みが強大だったからこそ、各国は一時休戦して手を組み憎食みと戦いました。魔物も種族がバラバラでも意思は同じ、汚れた魔物という共通の敵を殲滅するため手を取り合おうとしているのです。
「でも、ちょっと大げさじゃないですか?汚れた魔物って数えるほどしかいないんですよね」
「サクラ、それなんだけどね…」
「?」
何やらノームは言いにくそうにしています。
「あの時言わなかったけど…奴らは人の行きつかない奥地で着実に数を増やしてるんだ。しかも種族がバラバラでも汚れているという共通点のみで共存してる」
「え………因みに数はどれくらいですか?」
「百体以上はいる」
「た、大変じゃないですか!?」
「このことはサクラにも教えたくなかったんだけど…」
衝撃の事実が明かされました。
いくらグリフォンやベヒモスが強くても数の力には敵いません。各種族で共闘の意思が芽生えるのも必然の事態です。
これは咲楽が危惧していた生態系の崩壊が本当に起きるかもしれません。
「だから、この魔物同盟は精霊としてもありがたい案なんだ」
「協力するとなると、魔物同士言葉が伝わらないと苦労しますよね………でも、なんで私が必要なんですか?四人の精霊たちがいれば通訳はできますよね?」
「うーん…こうなったらサクラに僕ら精霊の全てを伝えないといけないね」
魔物を代表する土の精霊ノームは、魔物事情、精霊の役割、その全てを咲楽に話し始めます。




