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第36話 【お茶と魔物】




 孤児院を出発して二日にもわたる森の中の冒険も、ようやく終わりを迎えました。


「やっと森を抜けました~」


 久しぶりに視界一面に広がる空を見上げ咲楽は大きく伸びをします。

 その広大な大地の先に見える大きな防壁、それがハルカナ王国です。目的地まで目と鼻の先ですが到着はまだまだ先です。


「少し休憩しましょうか」


「おお~」


 二人は草の絨毯に腰かけ、咲楽は水筒を取り出しコップにお茶を注ぎます。


「女神様は………気配がないですね」


 女神様にお茶をお供えしようとした咲楽ですが、キャリーカートにしまってある女神像の中から気配を感じません。どうやら不在のようです。


「女神様も多忙だからね」


「ですよね…じゃあノームくんの分です」


「なにそれ?」


「朝作ったほうじ茶ですよ」


 咲楽はノームに温かいほうじ茶を渡します。

 ノームは湯気が立つお茶の香りを嗅いで、一口。


「うん、大地と自然の味がする」


「おせんべいもありますよ~」


 さらに咲楽は鞄から海苔が巻かれたおせんべいを取り出します。


「うまーい」


 ノームと咲楽はおせんべいをバリボリと齧りながらほうじ茶をすすりました。


 森の中と違い今は風を遮る物がないので、涼しい風が咲楽の火照った体を撫でます。少し肌寒いくらいですが、強すぎず熱すぎない日差しがポカポカと体を暖めてくれました。


「………いい天気ですね」


「………だねぇ」


「………眠くなってきましたね」


「………ふわぁ」


 無防備にこの大自然の中で寝そべる二人。

 そうして仰向けになり空を見上げる咲楽は、あるものを視界にとらえます。


「……あれ?あの大きな鳥って」


「グリフォンだね」


「グリフォン…って肉食ですよね!?」


 咲楽は慌てて体を起こします。

 グリフォンとは咲楽が住む地球でも有名な、ファンタジー世界に登場する空想上の魔物です。


「大丈夫。こっちに気付いても僕に牙を向くことなんてありえないから」


「そうなんです?」


「人々が女神様に逆らわないよう、魔物は精霊には逆らわない」


「…なら大丈夫ですね」


 安心した咲楽はほうじ茶をすすります。

 すると、今度は地上の方で別の魔物を発見しました。


「あの大きな角の魔物はなんでしょう?」


「ベヒモス、どっちもすごく強い魔物だよ」


「へぇ…あの二体、争ってるんですかね?何やらチラチラとお互いを観察しているみたいですが」


「う~ん…それはあり得ないよ。縄張りでもない場所で実力が拮抗した種と争い合うなんて。野生は危険を犯さないのが基本だからね」


「へぇ~」


 咲楽はノームから大自然を生きる魔物たちのルールを学びます。

 前回の冒険では人々の争いを止めることに必死で、魔物に関して気に留める余裕がありませんでした。今ならプレザントに生息する不思議な魔物に興味を向ける余裕があります。


「ノームくんって女神様に選ばれた魔物の王様なんですよね?管理したりしないんですか?」


「厳密な管理はしてないよ、賢い魔物は種族ごとにまとまりがあるしね」


「じゃあ普段は何をしてるんです?」


「担当する属性魔力濃度の管理とか、自然管理とか、生態系を壊す魔物に警告したりかな。大飯食らいのフェンリルとかが常習犯で、よく火の精霊サラマンダーがお仕置きしてるよ」


「フェンリル?いろんな魔物がいるんですね~」


 魔物の同行を観察しながら雑談をする咲楽とノーム。

 グリフォンは空から、ベヒモスは丘の上から視線を送り合っています。そしてその二体が、別の方向にも目を向けていることに咲楽たちは気付きました。


 その視線の先、丘の下。

 そこには体の一部が異様に黒く変色したイノシシの魔物がいました。


「あれ、もしかして汚れた魔物ですか?」


「…うん、そうだよ」


 クロバから聞いた汚れた魔物、ワイルドボアが足を引きずらせながら地を這っています。その体は要所要所で黒く汚れており、見た者に悍ましさを感じされる姿です。グリフォンとベヒモスは、明らかに汚れたワイルドボアに敵意を向けていました。


「グリフォンとベヒモス、あの汚れた魔物と戦っているみたいですね…」


「別種の魔物同士が共闘するなんて珍しい。お互いに鳴き声が違うから意思疎通は出来ないはずなんだけど」


「そっか…汚れた魔物出現に困っているのは魔物たちも同じですものね」


 人間にとって汚れた魔物は駆除しなければならない厄介な魔物ですが、それは魔物側も同じです。グリフォンとベヒモスは警戒しながら距離を保ちつつ、汚れたワイルドボアを睨んでいます。


(魔物のランクからしたらワイルドボアはE…汚れたらDランクだってクロバさんは言ってました。対してグリフォンとベヒモスはAランクだったはず。二体の方が圧倒的に強いはずなのに、なんであそこまで慎重に…?)


 咲楽は汚れたワイルドボアを観察します。


(後ろ右足を引きずってる…にしては傷が浅いような?それにワイルドボア周辺に障害物がない、猪の突進を生かせる地形。そこまでの知能があるかは知りませんが、もしかして誘っている?)


 この戦況を冷静に分析する咲楽。伊達に一年間、危険な戦場の中で冒険を繰り返してきたわけではないのです。


「ノームくん、助太刀しなくていいんですか?」


「あの二体に任せるよ。今の僕はサクラの護衛という大義があるから」


 そう言ってノームはお茶をすすります。

 咲楽は少し悩みましたが、クロバから汚れた魔物には関わるなと釘を刺されたばかりです。不用意に関わらず、この争いの結末を見守ることにしました。


「あれ?」


 そんな戦況に変化が起こります。

 一人の小さな少年が、隠れながら汚れたワイルドボアに向かった接近していたのです。右手には短剣、左手には小さな盾を携えています。どうやら汚れたワイルドボア討伐を狙っているようです。


「…」


 小さい子供が仲間も連れず単騎で汚れた魔物に挑む。咲楽は直感で、その少年の敗北を予感しました。


「あの人の子、勝てると思う?」


「思いません!行きましょうノームくん!」


「はいはい、結局こうなるのね」

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