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第324話 【アネモネ姫②】




 当時のアネモネ姫は十六歳でした。


 整った美しい顔立ちに、すらっとした身長とスタイル。光を浴びると金色に輝く髪は、まるで貴族のお姫様を象徴するかのような容姿をしています。本人は胸の小ささを気にしていますが誰の目から見ても美少女です。


 さらに魔法の才覚も優れており、独自に開発した魔法理論は数多くあります。ローラント家の名に恥じない天才児として国民から注目されていました。


 ですが彼らは彼女の苦悩を知りません。


 両親から愛されていることを知ったアネモネは涙を流して喜び、十六年間抑え込んでいた気持ちを吐き出しました。立派な貴族として持て囃されていた彼女ですが、蓋を開ければどこにでもいる女の子なのです。


 そんな真っ暗な絶望の人生を過ごしてきたアネモネ姫の物語は、四ヵ国の間で平和条約が結ばれた日から大きく変わります。






 帝王の死後、帝都フリムの変革が始まりました。


 世界に平和をもたらした英雄オーガルが新しい皇帝となり、不条理な悪政や軍の規律を一新させます。理想の設計図はクーデターを起こす前から既に描いていたので迷いはありません。


 政治は国民に安定した生活を約束し、軍人や貴族だけが私腹を肥やす制度は撤廃。軍は外の国を攻め入るための組織から、国の平和を維持する組織として規則が改められます。


 オーガルの統治は多くの国民たちから支持を得ました。


 国が安定してきた半年後、オーガルは皇帝の座を降ります。


 次の仕事は帝王を利用して悪事を働いていた貴族や商人の粛清です。

 人身売買、奴隷商人、麻薬取引…帝王の側近だったオーガルは全てを見てきました。国民の先導は他の誰かに任せて、隠蔽されてきた悪事を裁く組織のリーダーとなりました。


 そして第二皇帝として選ばれたのが息子のハクアです。


 若すぎる皇帝に不安を覚える民もいますが、ハクアは後任として立派に責務を果たしていました。いつだって冷静に迷いのない判断で問題解決に導きます。

 またオーガルと違った方向の試みも実施されました。食文化の発展、新しい商品の発案、魔法技術を使った建造物…とても遊び心に溢れたアイデアを出してくれます。


 ハクアが表で国を繁栄に導き、裏でオーガルが悪事の粛清。二人の活躍で帝都フリムは瞬く間に繁栄しました。


(今の私にできること…それはもう決まっていますの!)


 ここからアネモネの新たな人生が幕を開けます。


 七大貴族の魔法使いという立場を活用して、オーガルの国作りに全面協力。さらに直接各地の砦を回って国民に歩み寄り、自作の魔道具で復興の援助をしました。


 さらに帝王と七大貴族の縛られた関係は明るみになります。アネモネは純潔を守られた唯一の長女として、“奇跡の姫君”と呼ばれヒロインのように国民から親しまれました。


(毎日が胸躍るような日々…寝不足だけが困りごとですが)


 アネモネはまったく新しい生活に生きがいを感じていました。





 更に半年が過ぎてハクアが十六を迎えた頃。

 皇帝の王妃を決める話し合いが設けられました。


 本来なら皇帝であるハクアが好きに決めても良いのですが、本人は何年も帝都を離れていたので共に旅をした仲間以外の人を知りません。よって軍の将校と七大貴族の間で選定が始まります。


 そしてアネモネ姫以外に適任はいないと意見が一致しました。


 ハクアとは年も近く、貴族としての身分も申し分ありません。オーガルの政策に積極的に協力していたので信頼もあり、国民も伝説の英雄には奇跡の姫君が相応しいと納得するでしょう。


(私が新帝都の王子様と結婚…)


 一度は死を覚悟した絶望の人生。それが新時代の王妃として選ばれたのですから、アネモネにとってまさに夢のようです。


(この身をかけてハクア様をお支えしなければ!)


 ここまでの展開はまさに順風満帆。婚儀の日を迎えれば夫婦二人、素敵な共同生活が始まるでしょう。


 …しかし、それはアネモネにとって試練の始まりでした。

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