第312話 【咲楽の恋愛要素】
重苦しい過去回想は終わりまして現在。
移動拠点グラタンの背に乗って流しそうめんを堪能した咲楽とオーガルたちは、食後のお茶菓子を食べている最中です。
「別にハクアくんとは恋仲じゃないですよ」
冷たいお茶を器に注ぎながら咲楽はさらっと告白します。
「…本当なのか?」
疑り深いテオールは念を押して確認しました。
「親しい仲間の一人ですけど、特別な関係ではありません」
「あんなに別れを惜しんでいたではないか」
「仲間とのお別れはみんな平等に惜しんでましたよ、ねっ」
咲楽は草原スペースでごろごろしている三人に声を掛けます。
「家来との別れは身を裂くような思いだった」
「…忘れた」
「さびしいけど、またきてくれた」
ナキ、キユハ、ルルメメは当時の記憶を鮮明に思い出せました。
「少なくともサクラに恋愛感情はないのか…」
そう呟くとテオールは腕を組んで黙りこくります。
「咲楽ちゃんにロマンチックな展開なんて期待するだけ無駄だよ」
「え、どうして?」
すると遠くで食休みをしている葵とアクリの雑談が聞こえます。
「サクラお姉ちゃんっていろんな人に好かれてそうだけど」
「そりゃ咲楽ちゃんは初対面の相手でも好意を向けられる人懐っこい女の子だからね。でも好意はあくまで友好的なものだから、勘違いして失恋を経験する男子が後を絶たないんだ」
「…なんだか想像できる」
「本人は恋愛のレの字も分からない天然っ子だよ」
二人の会話を聞いてオーガルはため息を吐きました。
「やはり杞憂だったか…少々残念ではある」
「どうしてオーガルさんが残念がるんですか?」
「世界を救う旅でハクアとサクラは様々な奇跡を起こしてくれた。二人が力を合わせて帝都フリムを作り直せば、想像を超える繁栄が期待できる」
「買いかぶりすぎですよぅ」
「それにサクラと過ごす一時は楽しい。帝都に永住してほしいくらいだ」
「…オーガルさんも変わりましたよね」
過去のオーガルはクーデターの使命に駆られて、気持ちに余裕のない堅物な印象でした。ですが今は肩の荷が下りて軽口を叩けるほど心に余裕があるのでしょう。
「一年前に死に損なってしまったからな。サクラとハクアに生かされた命、どう使えばいいか持て余している」
「もう…父親というものはどうして自分の命を軽視するんですかね」
「サクラも人の親になれば分かる」
「…そういうものですか」
何だかんだとすっかり話が逸れてしまいました。
「それにしても冷静なテオさんらしくない思い違いでしたね」
「…」
戦時中のテオールは常に冷静沈着で、早とちりで失敗を犯すような軍人ではありません。それなのにどうして二人の関係を誤認して慌てていたのでしょう。
「色々と事情があってな…心配事は他にもある」
情報を整理したテオールはお茶を一口含んでから話を改めます。
「サクラとハクア様が再会するにあたり、どうか気にかけてほしい人物がいる」
「誰でしょう?」
「ハクア様の婚約者である新帝都の王妃様だ」
どうやら話の本命はここからのようです。




