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第309話 【ハクアの物語➂】




 世界平和の使命を背負った咲楽。

 目的はあれど感情のないハクア。

 気の利いた言葉を掛けられないクロバ。


 三人でのハルカナ王国へ向かうまでの旅はとても重苦しい空気でした。


(元の世界に帰れるかな…)


 当時の咲楽は不安で頭がいっぱいです。このまま元の世界には帰れず、二度と両親に会えないかもしれない…それが何よりも恐怖でした。


 それだけ子供にとって親は重要な存在なのです。


(ようやく前に進める)


 対してハクアは安心した気持ちで旅を始めていました。

 孤児院に匿われてから待ちに待った七年、ようやく帝都フリムに向かうきっかけが現れたのです。このまま流れに身を任せれば目的は達成できます。


(…これが女神様のご加護か)


 唯一不安なのは女神の使者である咲楽です。

 精神面でも不安定な部分が多々ある上、驚くべきはその身体能力の低さです。普通なら簡単に飛び越えられる崖にも上れず、魔物と戦う術もありません。


(それでも唯一無二の可能性、必ず死守する)


 少し目を離せば死んでしまいそうな生き物なので、もしものことが起きないよう全力で護衛をする必要がありました。


「ハクアくんはどうして孤児院にいたんですか?」


 旅の途中、咲楽はよくハクアに話しかけます。


「…詳細は話せない」


「両親はいますか?」


「生きているが、会えない」


「じゃあ私と一緒ですね」


「…」


 そんな会話をしてもハクアは共感することが出来ません。咲楽に対して感情を向けることも、喜怒哀楽で感情を揺さぶられることもありません。


 ですが咲楽の成長を一から見守ることになったハクアは、これから多くのことを学ぶことになるでしょう。


 



 ハルカナ王国に到着した咲楽とハクアは、騎士隊長クロバの紹介で国王と謁見します。国王は英雄や勇者といった英雄譚が大好きなので、異世界からやって来た女神の使者と、騎士隊長並みの実力を秘めた謎の剣士を甚く気に入りました。


 咲楽はハルカナ王国という国の内情と歴史を知り、国王の援助で旅に必要な装備や物資を手に入れ、次の国へ向かうための準備を整えました。


「戦時中とは思えないほど賑やかな国でしたね~」


 異世界に迷い込んでしょぼくれていた咲楽は、国王と民たちの活気に励まされて気持ちを立て直します。最初に知ることができた勢力がハルカナ王国で良かったと心からそう思えました。


「次に向かう国はギルドの街ソエルです」


「…やはり帝都フリムは後回しか」


 咲楽とハクアは今後の目的を確認します。


「騎士の皆さんの話を聞いて、帝都フリムの危険性は理解しました。ギルドの街ソエルも安全とは言えない国ですが、ソエルの総長とハルカナの国王には絆があります」


 そう言って咲楽は一枚の封筒を取り出しました。


「この紹介状を“クスタ”という人に渡せば、総長まで話を通してくれると国王様は言っていました。まずはソエルを目指しましょう」


「…」


 本当は真っ直ぐ帝都フリムに帰りたいハクアですが、ここは咲楽の合理的な判断に従います。


「キユハちゃんとリアくんも、準備はいいですか?」


 そしてハルカナ王国で新しい仲間が二人も加わりました。


「質問、移動手段はどうするつもりだ?」


 魔法使いのキユハは本を捲りながら咲楽に尋ねます。


「国王様が小屋付きの荷馬車を用意してくれたので、歩いて旅する心配はないですよ」


「安心、安堵…女神の魔法の研究に専念できる」


「馬車の管理はお任せしますね、リアくん」


 もう一人の仲間は全身を鎧で隠したリアです。


「騎士団を追放されて、旅の御者に転職か…危険な旅にならないことを祈ろう」


「いざという時、戦闘はお願いしますよ」


「戦力として期待しないでくれよ…」


 キユハの旅の目的は一貫して魔法研究のためですが、騎士団を追い出されたリアは目的もなく咲楽に誘われたから同行しているだけでした。


 奇しくも集まった四人の新たな旅が始まります。


「冒険の仲間が増えるとワクワクしますね」


 ハルカナ王国から元気を貰い、頼もしい仲間も増えて、次の目的地も決まりました。咲楽は勇気を振り絞って次の一歩を踏み出すのでした。


(まだ目的は達成していないのに、どうしてサクラは嬉しそうなんだ?)


 そんな咲楽の変化を不思議に思うハクア。

 まだまだ旅は始まったばかりです。

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