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第30話 【仲間たちの近況と封書】




 夜の食堂。

 お昼ごろの活気はなくなり、子供たちは遊び疲れ早めに寝てしまいました。魔道具のランプの灯が食堂にいる咲楽とクロバを照らしています。


「…なるほど。私を思い出して、みなさん混乱中なのですね」


 ようやくクロバが持つ情報が咲楽に伝えられました。

 咲楽に関する記憶のみならず、あらゆる歴史から咲楽の存在が抹消されていたのです。そんな事態になれば、咲楽を思う者たちの心中は穏やかではいられません。


「ご迷惑をおかけしてすみません…」


 咲楽は自分の存在の有無で、そこまで混乱を巻き起こすとは思わなかったのです。


「気にしなくていいよ。この事象は自然現象なんだろ?」


「………はい」


 真実を隠す咲楽は、クロバと目を合わすことが出来ずうつむきます。

 しかし、いつまでも心を痛めてはいられません。咲楽はクロバに聞きたいことが山のようにあるからです。


「あれからプレザントはどうですか?また憎食みが沸いたりしていません?」


「いや、奴らは沸いていない」


「まったくですか?」


「ああ、目撃証言があっても信憑性ゼロの噂くらいさ。今のプレザントは課題もあるが、平和なものだよ」


「…良かったです」


 安心した半面、咲楽は覚悟を決めました。


(憎食みが現れた件は隠そう…これから楽しませようとしてるのに、あれ一体の出現が妨げになるかもしれませんし)


 憎食みの存在はプレザント人にとって恐怖でしかありません。咲楽は恐怖を撒くためプレザントに戻って来たわけではないのです。


「それと、私と冒険した英雄…仲間たちは元気ですかね?」


「やはり気になるか」


 聞かれることが分かっていたのでしょう、クロバは微笑みます。


「リア団長は名実ともに最強の騎士として活躍している。今では誰もが憧れる、ハルカナ自慢の騎士様だ」


「おお…!成長しましたね、リアくん」


「キユハ殿は女神石の研究で自宅に引き籠っている。たまにだが、士官学校に顔を出して魔法研究に参加しているよ」


「あの社交性ゼロのキユハちゃんが…!」


 咲楽は懐かしい気持ちになりながら、仲間たちの活躍を喜びました。

 リアもキユハも、咲楽と同じく最初から英雄として勇ましかったわけではありません。どうすれば戦乱の世が平和になるのか、冒険の中で迷い、悩み、苦しみながら英雄と呼ばれるまで成長したのです。


「他の三ヵ国は詳しく知らないが、平和を維持できているみたいだ。どんな脅威が現れても、四ヵ国には二人ずつ英雄が住んでいる。何が起きたって平和は崩れないよ」


「……本当に、平和になったんですね」


 辛かった冒険の数々は、ちゃんと報われていたのです。改めてプレザントが平和になったことを実感した咲楽は感動していました。


「サクラのおかげだ、本当に感謝してもしきれない…」


「いえ、私はほんの少ししか手伝っていませんよ」


「…」


 謙虚な咲楽を見て、クロバの中の罪悪感が疼きます。


「…そうだ、これを渡しておこう」


 クロバは一枚の封書を咲楽に渡しました。


「国王陛下からだ」


「ああ、国王様も思い出したんですね」


 封書を受け取った咲楽は封を解いて中身を確認します。


「これは…身分証ですか?」


「ああ、それがあれば問題なくハルカナ王国に入国できるぞ」


「準備が早いですね」


 封書には身分証の他にも何通か手紙が入っていました。


「いろいろ書いてありますが、読めません…」


 手紙を見て顔をしかめる咲楽。

 地球とプレザントの言葉は共通なのですが、使われる文字はまるで違います。手紙の文章にはプレザントで使われる精霊文字で書かれていました。


「どれ、翻訳するよ」


 クロバは咲楽の隣に移動して手紙を音読してくれます。

 内容はハルカナで拠点に利用していい宿屋や、無料で買い物ができる店舗などなど。ハルカナ王国で咲楽が不自由なく活動できるよう、国王はいろいろ取り計らってくれたようです。


「それで、もし通貨が必要だったら…」


「すぅ…」


「おっと」


 手紙を読んでいる途中、咲楽はクロバに寄り掛かってきます。

 時刻はもう深夜。長旅の疲れと慣れない環境で疲労が溜まっていたのでしょう、咲楽は眠ってしまいました。


「お疲れだったか」


 眠りについた咲楽を寝室に運ぼうと抱っこするクロバ。


(相変わらず軽いな…)


 こうしてクロバが咲楽を抱っこするのは二度目、戦時中のボロボロになった咲楽を運んだ以来です。


「………」


 クロバは嫌な思い出がフラッシュバックします。

 そんな過去の自分の不甲斐なさを思い返しながら、クロバは咲楽を寝室まで運びに行きました。

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