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第29話 【家族で食べる鍋】




 咲楽は地球から持ってきた食材と、子供たちの好みと相談しながら今晩の献立を考えます。


「子供たちはどんなものが食べたいですか?」


「肉!」

「…肉かな」

「昨日みたいな美味しいお肉がいい!」


 満場一致でお肉を選択する子供たち。


「昨日の鶏肉は使ってしまいましたし、どうしましょう」


「あ、じゃあお願いがあるんだけど…」


 咲楽が献立に悩むと、ハトが手を上げます。


「山菜が豊富な場所にロックブルが住みついちゃって、あそこが荒らされると私たちの食料が減っちゃうの。狩りに行ってきてくれない?」


 ハトは魔物の討伐依頼を出しました。

 ロックブルのような無垢な魔物は統率力がなく、群れを離れ人々の暮らしに害を及ぼすこともあるのです。


「ぶる……牛ですか。ハトさんの生活を脅かす魔物なら倒さないとですね」


 生物に優しい咲楽もそこは割り切ります。


「ロックブルはDランクの魔物だ、今のリットとクグルじゃ協力しないと討伐は厳しいだろうな」


 そう言って二人の様子を伺うクロバ。

 騎士だろうと冒険者だろうと、誰かと力を合わせて魔物討伐に挑むことはプレザントでは常識です。ですが不仲であるリットとクグルは、今まで一度も仲良く共闘したことがありません。


「仕方ない、今回は俺が…」


 クロバがそう言いかけた、その時。


「うまいメシのためだ、手を貸せ」

「ふん…仕方ない」


 リットとクグルは肩を並べて狩りの準備を始めました。


「!?」


 クロバは耳を疑います。

 あの協調性の欠片もない二人が、こうも素直に共闘を受け入れるとは思わなかったからです。


「二人ならきっと勝てます、ファイト!」


“強化魔法(小)”


 咲楽はこっそり強化魔法を使用してリットとクグルの身体能力を二倍にしました。


「……あれ?なんか急に調子が良くなった気が」

「なんだこれ。力が湧いて来る」


「戻ってきたらとびっきり美味しい料理にしますから、がんばって!」


「期待してるぞ!」

「じゃあ行ってくる…」


 二人は勇ましく魔物討伐に出向きました。


「ああ…なるほどな」


 信じられないものを見たクロバですが、あることを思い出します。

 この場にはプレザントを平和にした咲楽がいるのです。戦争を終結させた咲楽の手にかかれば、子供の仲裁くらいでは手こずりません。


「もうサクラの手の平の上だな」


「あはは…孤児院長の立つ瀬がないよ」


 嬉しそうに笑い合うクロバとハト。

 女神様から授かった女神の魅力に加え、咲楽が元々持っている人心掌握術。さらに地球の娯楽文化まで加われば、子供の喧嘩なんてあっという間に解決です。





 リットとクグルは苦戦することなく、大きなロックブルの討伐に成功。ハトとクロバがロックブルは解体し、咲楽は今日中には食べきれない大量の牛肉を手に入れました。

 その間、咲楽は今晩の献立を決めています。


「今日の料理は、すき焼きです」


「…好き焼き?」


「はい。鍋の中で好きなものをいっぱい焼くので、私の世界ではすき焼きと呼んでいます」


 残念ながら咲楽の答えは不正解なのですが、ここは異世界。誰もこの間違いにツッコミは入れません。


――――――――――――――――――――

 ~すき焼き~


 ①まず割り下から作ります。別鍋で水を沸騰させてから酒、みりん、醤油、砂糖を入れて中火にして温めます。


 ②鍋にロックブルの脂身を炒めて油を敷きます。油がでたら脂肪を取り出し、薄切りにした牛肉を炒めます。


 ③肉に火が通ったら鍋の端に寄せ、温めた割り下を入れます。プレザント産の山菜やキノコ、そして地球のネギに近しい野菜も投下します。具材に火が通ったら完成です。

――――――――――――――――――――


 鍋の中でクツクツと煮られた食材の数々。すき焼きから沸き立つ醤油の香りは、醤油を知らない異世界人でも嗅げば思わずお腹を鳴らしてしまいます。


「豆腐が無いのが悔やまれます…」


 卵を溶きながら悔しそうに呟く咲楽。

 今回の冒険は豆腐のような日持ちしない食材は控え、卵のような常温でも長持ちする食材しか持ってきていないのです。


「この溶き卵につけて食べると美味しいんですよ」


 咲楽は溶いた卵が入った器をみんなに配ります。


「鍋か…変わった食事法だね」


 鍋の食べ方はプレザントにはない食文化なので、クロバは物珍しそうに観察していました。


「はい。私たちの世界では、こうして家族みんなで鍋を囲ってわいわい食事をするのが習わしなのです」


「…家族?」


 ふと、クロバは周囲を見渡します。


「おいリット!肉ばっかとるな!」

「そう言うお前も肉だらけじゃねーか!」

「あはは…おかわりの準備をした方がいいですね」

「ん~味のしみ込んだ山菜も美味しい」

「おいしいよサクラお姉ちゃん!」


「………」


 不思議な光景でした。

 こんなに楽しい食事風景を見たことがありません。クロバの心には、今まで感じたことのない不思議な高揚感があります。


「そうか…これが、温かい家族なんだね」


 クロバは今まで食べたことがない美味しい鍋を通して、少しだけ温かい家族を知りました。

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