第288話 【魔物同盟の今後】
その後、咲楽はできる限りの支援をするためグリフォンに乗って各地を回りました。
黒い竜と対峙した際に負傷した魔物たちの回復。
魔物同盟の拠点となる設備や物資の助言。
精霊の枯渇した魔力回復の補助。
「これが精霊たちの存在を維持している精霊石ですか」
そして咲楽が最後に訪れた場所は東の辺境の土地、岩山に隠された洞窟の奥深く。そこには身の丈ほどの大きな精霊石が祭られていました。
「僕が精霊に進化した時に生まれた土の大霊石だよ」
ノームはポンポンと大霊石を手で叩きます。
「これは僕にとって心臓みたいなものだから、人間に知られたら困るんだ」
「私はいいんですか?」
「精霊を作るなら学んでおいた方がいいでしょ」
「なるほど…」
「だからこの件で精霊の間で揉めたんだけど、サクラなら悪用しないだろうって結論に至ったんだ」
「信頼してくれてありがとうございます」
四大精霊は世界を救った咲楽を認めています。
今回の魔物騒動で協力を拒んでいるのも面子のためだけではなく、危険な戦いに巻き込みたくなかったからです。
“ヒール”
咲楽はダメ元で大霊石に回復魔法をかけました。
「どうです?」
「確かに魔力は回復してるけど、サクラが離れると注いだ神力は消滅しちゃうね」
「そうですか…」
咲楽が保持している神力は“落とし物の信仰”から得ており、それを疑似魔力に変換して精霊を召喚しています。ですが対象の側を離れると効力が途切れて魔力は霧散してしまうのです。
「でもサクラが居てくれるだけで僕自身の魔力回復は効率的に出来てるよ」
「それなら嬉しいです」
「だからと言って何時までもサクラをここに留めておく訳にはいかないよ」
ノームは残念そうに肩をすくめました。
「お疲れさま、サクラ。後のことは大丈夫だから」
これで魔物同盟のお仕事は以上になります。後は拠点に戻って旅を再開させながら、新しい精霊を生み出す機会を待つだけです。
「ノームくん」
ですが咲楽にはまだ尋ねたいことがありました。
「もし自然界が平和になったら、魔物同盟はどうなるんですか?」
「可能なら同盟関係は維持してほしいけど、野生の魔物の集まりだからねぇ。共通の目的がないと自然消滅すると思うよ」
「共通の目的ですか…」
ここで咲楽は魔物と人間の関係を確認します。
「精霊の皆さんが人間と深く関わることを拒むのは分かります」
「うん」
「じゃあ魔物の皆さんはどうでしょう」
「それなら何も問題はないよ」
ノームはあっさりと結論を述べました。
「古い時代から人間と魔物は共存できてるから」
「でも人間は魔物肉を食べたりしますよ」
「そんなの肉食の魔物だって同じだし、人間は無垢な魔物しか食べないからね」
ここで補足ですが異世界プレザントは知性のある魔物の他に、意思を持たない植物のような魔物のことを“無垢な魔物”と呼称しています。
「ロックホースやロックトプスという魔物なんかは、自分の意思で人間に歩み寄って共存する道を選んだよ」
「へぇ~」
「グリフォンとかダイアウルフみたいな種の拘りが強い魔物は前例がないけどね」
人間と魔物の関係はそれほど悪くないものでした。
これは咲楽にとって喜ばしい話です。
「戦いが終わったら同盟で何かしたいの?」
ノームは咲楽の意図を何となく察します。
「魔物同盟ならサクラの好きに使っていいよ」
「え、いいんですか?」
「魔物のみんなもすっかりサクラに懐いてるからね。それにやることを指示してくれたら、同盟関係を維持できるかもしれない」
咲楽はあっさりと魔物同盟の主導権を手に入れました。
(それなら最初に想像してた計画が実現できるかも…!)
魔物同盟を国おこし作戦に利用できれば、やれることの幅は格段に広がるでしょう。
(二週目の旅も面白くなりそうですねぇ)
咲楽の旅も次の目的地で最後ですが、世界を一周しても国おこし作戦は終わりません。教えてきた娯楽文化がどれだけ発展しているのかを確認する二週目の計画も立てています。
「ならちゃっちゃと黒い竜を倒しちゃってください」
「簡単に言ってくれるね…」
「私たちを頼れば簡単なんですけどね」
「精霊の都合でややこしくしてすみません」
マイペースな咲楽に向けて、ノームは乾いた笑みを浮かべました。




