第285話 【水の精霊ウンディーネ】
咲楽はグリフォンに乗って空を飛びながら、これまでの魔物事情を整理します。
(汚れた魔物に対抗するための魔物同盟…加入した魔物はもう九種族になるんだよね。名前を付けたリーダーは成長して話せるようになってるけど、ちゃんとコミュニケーションできてるかな)
同盟を立ち上げたものの咲楽には本命の国おこし作戦があるので、自然界で何が起きているのか何も分かりません。現状どうなっているのかは精霊に話を聞けば全て分かるでしょう。
「この辺でいいですよ」
「ギィ」
咲楽は移動拠点から少し離れた森の入り口付近にグリフォンを着地させました。
「よいしょ」
グリフォンから降りた咲楽は、懐に入れていた袋から四つの精霊石を取り出します。
「さて、手の空いている精霊はいますか~?」
そして精霊石に微量の神力を注ぎ込んで呼びかけます。
最初は土の精霊ノームと一緒に同盟を結成させましたが、前回は風の精霊シルフが情報を共有してくれました。四大精霊竜は自然界の管理と汚れた魔物の対応で多忙なのです。
『サクラ』
すると水の精霊石から反応がありました。
「…ようやくお話ができますね」
咲楽は水の精霊石に神力を注ぎ込んで精霊を現界させます。
精霊は竜の容姿が特徴的ですが、水の精霊はまさにイメージ通りの白い龍です。美しい毛並みと鱗、そして纏っている水流のうねりが太陽光で輝いてとても神秘的でした。
「お久しぶりです」
ウンディーネは地面に足を付けて咲楽と向き合います。
「はい、また会えて嬉しいです」
「ええ…ですがこのような形での再会は望みませんでした」
「人間界はそこそこ平和なのに、自然界は大変ですね」
「お見苦しい限りです」
「それでは魔物同盟の調子と汚れた魔物の動向について詳しく聞かせてください」
「…」
咲楽は早速本題に入りますが、ウンディーネは口を紡ぎます。
「ウンディーネさんは私の協力に反対なんですよねぇ」
「当然です。サクラは女神様の使者としての役割を果たし終えたばかりなのに、危険な魔物の争いに巻き込むわけにはいきません」
ノームやシルフも似たようなことを言っていましたが、もちろん咲楽は引き下がりません。
「関わってしまったからにはできる限り協力します。ウンディーネさんが何も教えてくれないなら、魔物のリーダーから直接話を聞くまでです」
「う…」
ウンディーネは何も言い返せなくなります。
命名したことで魔物の長は喋れるようになったので、その気になれば精霊の力を借りなくても同盟を動かすことが可能でしょう。魔物たちも同盟を作ってくれた咲楽には従順です。
『素直に話した方がいいと思うよ』
するとまだ手に持っていた土の精霊石から声が響きます。咲楽はすぐ神力を注ぎ込んで、土の精霊ノームを召喚しました。
竜の姿では直径1200mのツチノコになってしまうので、いつも話し合いの場では人間の子供サイズで姿を現してくれます。
「例の件、やっぱりサクラに相談しようよ」
「貴方まで…!」
「このままだとウンディーネが担当する森が危ないし、追い出した奴らが徒党を組んだら僕らの手に負えなくなる。やっぱりサクラが立ち上げた魔物同盟の成長が必要不可欠だよ」
「…」
ウンディーネは観念したように首を垂れます。
「…分かりました」
そう呟くと人間の姿に変身して咲楽と同じ目線に立ちました。人の姿といっても艶やかな青髪を靡かせる美しい女性は、どう見ても普通の人間とは思えません。
「魔物たちの統率を取り、各代表に命名をしたサクラはもう部外者ではありません。これから自然界で何が起きているのかを説明します」
「はい」
「ですがくれぐれも戦いに参加したり、人間に協力を要請したりしないでください。自然界の問題を処理するのは精霊の使命なのです」
「はいはい」
精霊の体裁と面子については指摘しても話が進まないので、咲楽は否定も肯定もせず適当に流します。
「ではお話します…汚れた魔物を束ねて縄張りを広げる“汚れた竜”について」




