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第284話 【忙しい咲楽】




 突如として現れた汚れた魔物の群れ。


 その大半は主にルルメメが討伐、ナキは親玉の黒い竜を危なげなく討伐できました。アクリだけは苦しい戦いになりましたが、エトワールの狙撃とキユハの魔法による援護のおかげで無傷です。


「ふぅ」


 アクリは短剣を握りしめて自分の力の成長を実感します。これだけの群れに囲まれて、数匹だけでも討伐できたのは快挙でしょう。


「いい筋だ」


 敵の全滅を確認したエトワールが木の上から降りてきました。


「セコイアに伝わる“緑天”の魔力は身体能力と察知能力を高める。それは使えば使うほど体に馴染み、緑天を纏わなくても強大な力が得られる」


「…!」


「力の使い方を誤るなよ」


「は、はい!」


 アクリはこの戦いを得て新たな力を開化させたようです。


「キユハちゃん、倒した汚れた魔物は埋葬しましょう」


「はいはい」


 その裏で咲楽はキユハにお願いして殺めてしまった魔物たちを土に埋めます。


(女神様、奴らの気配はどうですか?)


『もう近くに反応はありません』


(そうですか…)


 咲楽は手を合わせて討伐した魔物たちを弔いました。


「うーん…」


 そして黒い竜について考え込みます。


(黒い汚れ、異常な強さ、女神様の反応…憎食みと汚れた魔物には何か関連性のようなものがあるのかも)


 そのような仮説を立てていますが、重要なのは汚れた魔物の危険性が増しているという点です。


(ナキちゃんたちがいたから簡単に倒せたけど、あの黒い竜を精霊と魔物同盟だけで相手するのは大変だ。もしかしたら事態が悪化してるのかも)


 咲楽が国おこしをしている間も魔物事情は勝手に進んでしまいます。しかも精霊は咲楽の協力に否定的なので、自分から首を突っ込まないと状況が読めません。


「…それでは気を取り直して出発しましょうか」


 何をするにもまずは移動拠点に帰ってからです。





 移動拠点グラタン。

 それはグランタートルという魔物の背中に家を建てるという、異世界プレザントでも類のない拠点です。一番大きな建物は三階建て十二部屋もある大宿。隣の倉庫には大量の食べ物や物資などが大量に保管。裏にある研究所はキユハの家です。

 外には料理に使える野外用台所と石窯、剣の訓練場、住人たちで話し合える集会場と、色々な設備が充実しています。


「ふぅ~実家のように安心する」


「ここまで来れば大丈夫ですね」


 拠点に帰ってきた葵とつつじはようやく一息つけました。やはり戦う力のない人にとって、危険な冒険は気力を消費してしまいます。


「…」


 キユハは無言で自分の研究所に帰ります。


「サクラお姉ちゃん。またしばらくは自由時間?」


「そうですね、ひとまずゆっくりしててください」


「わかった!」


 元気なアクリは軽やかな足取りで宿の自室に向かいます。


「歩きながら話したいことは話せたから、私はセコイアに戻ろうと思う」


 そしてエトワールとはここでお別れです。


「またセコイアに来ますから、その時は一緒に演奏会をしましょう」


「それまで私も一つくらいは楽器を扱えるようにしておこう」


「それではまた!」


「ああ…達者で」


 別れの挨拶を交わすとエトワールは拠点を後にしました。


「すんすん…」


 今回の旅に同行することにしたルルメメは、グランタートルの顔面に張り付いて匂いを嗅いでいます。伝説の聖獣を前にしてグラタンは少々困った様子です。


「では北に向けて出発です!」


 それでもお構いなしに咲楽が指示すると、移動拠点はゆっくりと歩を進め始めました。これで十日後には最後の国に到着するでしょう。


「それで咲楽ちゃん、すぐ地球に帰るんだっけ?」


「転移先は私の屋敷の庭ですね」


 葵とつつじはこの後の予定を確認します。


 次の国に向かうまでの道中の一週間は地球に帰って学校に通い、休みの日は地球の時間を止めて異世界生活を進めるのがいつも通りの流れです。前回も同じように異世界を行き来しましたが、演奏会の物資調達で地球に戻っていたので日曜の朝から始まります。


「はい。でもその前に用事があるので、二人はゆっくり帰り支度を進めててください」


「これから用事?」


「すぐ済ませてきますよ」


 咲楽は二人にそう伝えると、首にかけた草笛を吹きます。するとビークと名付けられたグリフォンが飛んできました。


「向こうの森の入口まで運んでくれます?」


「ギィ」


 グリフォンに跨ると咲楽は一人で森に向けて飛び立ちました。


「咲楽ちゃん、相変わらず忙しないねぇ」


「少し心配ですけど…私たちはやれることをやりましょう」


 残された葵とつつじはのんびりと帰り支度を進めるのでした。

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