第281話 【最後の国を目指して】
多種族の国セコイアの国おこしに成功させた咲楽は、旅を再開させて次の目的地へと向かうことになります。
「それじゃあ行きますか」
「うん!」
咲楽の後にアクリとその仲間たちが続きます。
「女神の使者様ー!」
「素敵な催しをありがとうございます!」
「また来てください!」
屋敷の入口では多くの住人たちが、女神の使者一行を見送りに来てくれていました。
(偉そうにするのもこれで最後になるかな)
咲楽は真面目な顔を張り付けて堂々と行進します。
背後にはアクリ、キユハ、ナキ、つつじ、葵、ルルメメ、エトワールという錚々たるメンバーが続いているので、まさに大名行列です。
(帝都フリムでも身分を隠したいけど、たぶん無理だよね…)
次の目的地は四大勢力に数えられる最後の国、帝都フリムです。
ハルカナ王国やギルドの街ソエルのように隠れて国おこしをすることが咲楽の理想なのですが、フリムにも複雑な事情があります。
(ハクアくんとオーガルさん…きっとまだ忙しくしてるんだろうな)
これまで何度も国おこしを成功させてきた咲楽ですが、最後の国こそが最大の難関だと予想していました。
※
咲楽たちはセコイア入口の正門に到着します。
「あ、来たわね~」
そこではアクアベールが手を振って迎えてくれました。
「アクアベールさん、今回もお世話になりました」
もう他人の目はないので咲楽はいつも通りの調子でお辞儀をします。
「演奏会すごく楽しかったわね~」
「はい!私が居なくなっても、また開催してくださいね」
「もちろん!演奏の練習したり、作曲したり、新しい楽器を作ったり、みんな楽しそうに話し合ってたわ~」
アクアベールはとても嬉しそうに話します。
これからも音楽という新しい文化は、咲楽が手を加えなくても勝手に発展していくでしょう。
「国おこし作戦、大成功だったな」
「またえんそうききたい」
「お土産のスカーフまで貰えて大満足!」
ナキ、ルルメメ、葵も輪に加わって楽しかった思い出を語り合います。
「サクラ殿…少しよろしいですか」
するとやや遠くからウィングリングが手招きしてきました。
「なんでしょう?」
咲楽は手招きに応じて駆け寄ります。
「…」
その後をキユハ、エトワール、つつじが無言で付いて行きます。
「サクラ殿には返しきれない恩がある上、今回の文明開化…もう頭が上がりません」
「まぁまぁ、私がやりたくてやったことですから」
「これから出国されるサクラ殿に、耳に入れてほしい情報があります」
「…どんな情報でしょう」
ウィングリングの雰囲気から察するに、どうやら楽しい話題ではなさそうです。
「サクラ殿は入国されるまでの道中、魔物と遭遇することなく森を抜けたそうですね」
「ええ、平和な森でした」
「雨の季節になるとほとんどの魔物は穏やかになります。逆に晴れの季節では厄介な魔物が活発化してしまいます」
「というと?」
「リバーリザード…川に住む肉食の魔物です。最近では体が黒く変色して、狂暴性を増しているのです」
「汚れた魔物ですかぁ」
「はい…北の集落から被害報告を受けており、生態系や環境にも悪影響を及ぼしています」
汚れた魔物の被害は各国でそれぞれですが、自然と共に生活するセコイアは特に影響を受けているようです。
「汚れた魔物を討伐することは出来ないんですか?」
「過去に獣士隊を募って駆除に向かったことがある」
咲楽の問いにはエトワールが答えてくれます。
「奴らは周到に縄張りを移して、我々の包囲網を掻い潜っている。さらに汚れた部位を泥で隠すから見分けがつかないんだ」
「簡単、魔法で一掃すればいい」
ここでキユハも話に加わります。
「汚れていない魔物まで駆除したら森の生態系が乱れてしまう。それに大規模な討伐作戦は、神木に囲まれた森では行えない」
「ふん…相変わらず融通の利かない国だな」
どうやら人の力だけでは汚れた魔物の対処は困難のようです。
(うーん…魔物同盟も、そろそろ本格的に話を進めようかな)
やはり魔物の問題は魔物たちで解決させるしかないでしょう。
「北の川沿いは危険が多いので、森を出る際は南の道を通ってください」
ウィングリングはそう忠告してくれます。
「怖い魔物に遭遇しても、英雄と一緒なら怖くありませんね」
話を聞いていたつつじは咲楽の耳元でそう囁きます。
「つつじちゃんも分かってきましたね~」
汚れた魔物は確かに注意すべき脅威ですが、英雄を引き連れた今の咲楽に怖いものはありません。
※
長々と立ち話をしましたが、旅の時間は限られています。
「さて、そろそろ出発しますよ~」
咲楽の呼びかけに同行メンバーが集まります。
「…」
しかしアクリだけは名残惜しそうに街の入口を眺めていました。
「アクリちゃん、元気ないですね」
「…少し寂しくて」
「そっか、ニナちゃんと仲良くなれたもんね」
アクリとハナニナの関係は、咲楽が想像している以上に深まっていたようです。
「もしまたセコイアに行きたくなったら私に言ってください。グリフォンに乗って飛んでいけば何時でもニナちゃんに会えますから」
「そっか…ありがとう、サクラお姉ちゃん」
「それじゃあ出発しましょ~」
「うん!」
アクリは多種族の国セコイアに背を向けて、大きな一歩を踏み出しました。




