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第259話 【キユハ陣営②】




 移動拠点から出発したキユハ一行。

 三人は大きなゴーレムに揺らされて、順調に目的地へ向かっていました。


「いや~晴れた異世界は絶景だね」


 葵はゴーレムの頭の上から景色を見渡します。

 空は晴天で雨に濡れた地面の草木が生き生きと輝いているようです。さらに雨の影響で大きな川が作られており、そこでは数種類の魔物が群れで集まっていました。


「本当に見たことない生物しかいませんね」


 つつじは静かに着席しながら魔物たちを観察しています。


「グリフォンという鳥にも驚かされましたが、この世界の動物の生態が気になります」


「魔物の生態か…未知の探求だな」


 そんなつつじの呟きにキユハが反応しました。


「魔物に関しては家畜以外、どの国もほとんど未調査なんだ」


「この世界には動物学がないのですか?」


「魔物学ならあるにはあるけど、細かい生態はほとんど謎だらけだ。分かってるのは危険度と名称と生息域…それくらいだ」


 異世界プレザントは地球と違って動物の調査がほとんど進んでいない状況です。それにもいくつかの理由があるのですが、キユハはここでは省略しました。


「でも咲楽さんは魔物たちと親し気でしたよね。どのような繋がりなのでしょう?」


「…謎、不明」


 今日までキユハはグランタートルの上で生活したり、グリフォンを間地かで見てもノーリアクションでした。しかし本来なら驚くべき事柄なのです。


「家畜の魔物ならともかく、知性とプライドの高いグリフォンが人を乗せるなんてあり得ないことだ。精霊が関係してるのは明白だけど…」


 珍しくキユハは口数多めで語ります。


「流石は咲楽ちゃん、異世界でも特別な存在なんだね」

「こっちでも相変わらずのようですね」


 ですが葵とつつじはその事実にそこまで驚いている様子はありません。


「疑問、サクラはあっちでも特別なのか?」


 その反応が気になったキユハがそう質問しました。


「具体的な説明はできないけど、咲楽ちゃんはすごいよ!」

「咲楽さんには不可能を可能にする不思議な力を持っています」


 葵とつつじはどこか誇らしげにそう話してくれます。

 他人から見れば咲楽はどこにでもいる普通の女の子ですが、親しい友人や仲間からは一目置かれていました。それは地球でも異世界でも同じようです。


「ふーん…」


 キユハもそのうちの一人なので、すんなり納得できました。





 ゴーレムに騎乗しての旅は安全かと思いきや、トラブルが発生しました。


「グルル…!」


 数匹の狼の群れがキユハのゴーレムを取り囲んでいます。


「ついにエンカウントしちゃったね」

「大丈夫ですか…?」


 葵とつつじは不安そうですがキユハは冷静です。


(汚れてないし無益な殺生は止めておくか)


 キユハは風の精霊石を取り出し、それを無造作に振るいます。


 ブォン!


 すると激しい突風が吹き荒れ、狼の群れを吹き飛ばしました。狼はその威力におののいて散るように逃げて行きます。


(あんな魔物、詠唱を唱えるまでもない)


 面倒くさがって無言で魔法を発動させましたが、それに葵が食いつきます。


「今のって無詠唱魔法!?唱えなくても魔法って使えるんだ!」


「いや…魔道具を使ったから詠唱が不要なだけだ」


「魔道具?」


「精霊石に詠唱文字を刻み込んで、魔力増強の装飾を取り付けた道具のこと。拠点にあった冷蔵庫も魔道具だ」


「でも…それってただの精霊石だよね」


 葵の言う通りキユハが手に持っているのは、何の装飾も施されていない精霊石です。


「僕のことだ」


「へ?」


「だから、僕が魔道具なんだ」


「…?」


 キユハの言っていることを葵は理解できません。


「この体は両親によって作られた魔導体なんだ。体内に魔力を増強する道具を埋め込んで、肌には詠唱文字が刻み込まれている」


 キユハは袖をまくって腕を二人に見せます。

 そこに刻まれた夥しい精霊言語の羅列は初めて見る人をゾッとさせるでしょう。これまで何度か入浴などで咲楽に肌を晒していましたが、お互いに見慣れているので話題に上がらなかったのです。


「つまり僕は人間兵器ということだ」


「…」


 衝撃的な事実に葵は言葉を失います。


「…なんて書いてあるんですか?」


 そこでつつじが優しい口調でそう尋ねました。


「魔法を教えてくれた時、詠唱は気持ちを込めれば強くなると教えてくれましたよね。ご両親はどんな言葉をキユハさんに贈ったのですか?」


「…」


 少し間を空けて、キユハは渋々とこう答えました。


「大切な娘が傷つきませんように」


 それを聞いて安堵する葵とつつじ。


「なんだ~人間兵器とかじゃないじゃん」

「なるほど…キユハさんの魔法はまさに愛の力ですね」


 二人に持て囃されキユハはばつが悪そうにそっぽを向きます。


(サクラと同じ反応……親って生き物は何を考えてるか分からん)


 天才魔法使いキユハでも、自分の両親がどんな理論で自分を作ったのかを知りません。親からの愛情はなかなか子供には伝わらないものです。


投稿時間と順番を間違えました、すみません!

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