第233話 【卑屈な英雄②】
エトワールと再会してからしばらくして、広間の入口の襖が再び開きます。
「失礼します」
現れたのは四獣士の一人であるウィングリングです。
「…なっ」
毅然とした態度で登場したウィングリングですが、女神の使者の前で蹲るエトワールを見て狼狽します。
「エトワール様!使者殿の前では毅然に振舞うと仰っていたではありませんか!?」
「私はダメなハイエルフ…」
「エトワール様!?」
ウィングリングは大慌てで翼を広げ、へなへなになっているエトワールを隠しました。
「申し訳ありません、使者殿。本日の英雄は体調がすぐれないようで…!」
どうしてこんなに慌てているのか、その理由を咲楽はなんとなく察しています。
(ウィングリングさんは記憶封印が解除されてないから、私がセコイアの秘密を知ってることも忘れてるんですよね)
本来、英雄エトワールがこうなっていることは他国にも隠しておきたい秘密の一つです。こういった悪い点を女神の使者の前に晒してしまってはセコイアの面目が立ちません。
「リングさん、隠し事の必要はありませんよ。詳しい事情はエトワールさんの仲間から聞いているので」
「…し、失礼しました」
ウィングリングは自分の発言が迂闊だったことに気付きます。記憶封印に関係なく、同じ英雄であるナキが側近にいて仲間の内情を知らないはずがありません。
(うーん…こうなるとリングさんだけ可哀想ですね。記憶封印解除を検討した方がいいかも)
前の旅でウィングリングとは何度か面識はありましたが、アクアベールのように親しい関係になれなかったので記憶封印解除の対象外でした。
ですがテオールの記憶封印を解除して協力者にしたように、ウィングリングにも同じ処置が必要かもしれません。
※
「それでリングさん。ここに来たのは要件があるからですよね?」
話が拗れてばかりなので、ここで咲楽は強引に話を進めようとしました。
「は、はい。巫女様との面会の手筈が整いましたので、使者殿を本殿までご案内します」
ウィングリングも気を取り直して本来の目的を伝えます。
「ありがとうございます。実はリングさんにも伝えないといけないことがあるので、巫女様との面会には同席してください」
「承知しました」
「それとリングさん、私のことはどうか咲楽と呼んでください」
「はい、サクラ殿」
咲楽はこれまで使者として厳格に振舞ってきましたが、少しずつ砕けて接するようにしました。
「それじゃあみんなで行きましょうか」
「うん」
「うむ」
咲楽に言われアクリとナキも立ち上がります。
「ほら、エトワールさんも行きますよ」
「…」
しかしエトワールだけ蹲まったままでした。
「…私の中にはまだ、憎食みの残骸が潜んでいるかもしれない。サクラの側にいるべきではない」
「もう大丈夫ですよ」
「だが…」
「エトワールさんの中に憎食みはもういないと、私と女神様が保証します。ほら行きますよー」
咲楽に手を引かれ、エトワールはされるがまま引っ張られます。
(…ここではサクラお姉ちゃんが一番頼もしいな)
そんなやりとりを見てアクリはそう思いました。
ハルカナとソエルでは国の事情と大人たちに振り回されるばかりでしたが、女神の使者という身分を明かしたセコイアでなら咲楽の思うがままです。




