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第21話 【憎食み①】




 ハトが経営する孤児院はとても裕福です。

 森の中には食べられる山菜が豊富な上、騎士隊長クロバがハルカナ王国から食材や資金を調達してくれるので食料には困りません。


 そんな孤児院の住人は五人。

 役割としてはクロバが騎士として働き、ハトとハツメが孤児院の家事、そして二人の少年が山菜採取と魔物狩りを担当しています。


「………」


 一人の少年は弓を構えます。

 孤児院に住む少年は咲楽よりも年下ですが、騎士隊長クロバから戦術を学んでいるので戦闘技術は並みの騎士以上です。


 狙いは木の上で休んでいるロックバード。この世界ではFランクに指定された、少し大きい鳥種の魔物です。


「…!」


 少年はロックバードの心臓を狙い矢を放ちました。


 ヒュン


「キィッ!」


 矢はロックバードの翼を捉えました。


(少しそれた…でもあの翼ならもう飛べない)


 弓を持つ少年は急いで止めを刺すため、落下する獲物の元に向かいます。


「おらー!」


 その時、木の上から落下するロックバードに襲いかかる別の少年。剣を持った少年はロックバードが地面に着地する前に首を切断しました。


「よし二匹目!今日は俺の勝ちだな」


「…落としたのは僕だ」


 二人の少年は睨み合います。

 どうやら狩り競争をしていたようです。


「へ!先に倒したのは俺だぜ!」


「ただの横取りだろ!」


 何処にでもある、子供同士の些細な喧嘩。大人から見れば微笑ましい喧嘩ですが、そこには子供らしい“純粋な強い憎しみ”がありました。


 本来こんな小さい憎悪では、世界の裏側にいる奴らは姿を現しません。


 しかし、奴らは衰退していました。

 一滴でも憎悪を欲するほどに。


「……おい、あれって」


「まさか……本に書いてあった…!?」





 憎食み。


 奴らに決まった形態はなく、四足歩行だったり二足歩行だったりと統一性はありません。共通点があるとすれば、奴らの姿は黒以外の色が使われていないことです。肉体も体液も瞳も牙も毛も、まるで深淵のように真っ暗です。


 二人の前に現れた憎食みは、四足歩行の狼のような形をしていました。


「…」

「…」


 二人の少年は硬直します。

 クロバから教わった、憎食みと相対した場合の対処方法は「とにかく逃げろ」これだけでした。少年は頭の中で理解していますが、恐怖で足が竦んで動けないようです。


 憎食みは、弓を持つ少年の元に歩を進めました。強い憎しみの出どころへ、黒い唾液を垂らしながら近づきます。


「…っ!こっちだ化け物!」


 剣を持つ少年は小石を拾い、憎食みに投げつけます。

 憎食みを挑発するための行動ですが、こんなことでは憎食みは見向きもしないでしょう。しかし、憎食みは剣を構える少年を睨みました。


 この行動により弓を持つ少年の憎しみは柔らぎ、剣を持つ少年の憎食みに対する憎悪が大きくなったからです。


「あ……」


 しかし、少年ではこれが限界でした。


「…っ」


 無力な手から剣が零れ落ち、弓を構える手は震え照準が定まりません。世界の憎悪が集合して生まれた憎食みのプレッシャーは、まだ若い少年の耐えられるものではありません。


 憎食みは、剣を持っていた少年に、爪を立てます。

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