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第220話 【考察と会議】




「ナキちゃーん…地面は叩いたら駄目ですって」


 憎食みは無事討伐できましたが、咲楽はナキに説教をしていました。


「だが金棒は振り下ろした方が威力が出るのだぞ?」


 ナキは悪びれる様子もなく言い返します。


「そんなこと繰り返してたら大陸に良くないですよ。それに今の地震がナキちゃんのものだって分かったら、世界中の人が不安に思うでしょう」


「むぅ…」


 咲楽に正論を言われ言葉を詰まらせるナキ。

 過去に何度も注意されていることなのですが、ナキは張り切るとつい地面を叩いてしまうのです。


「…それより今のは本当に憎食みなのか?」


 キユハは潰れた憎食みを足蹴にしながら疑問を口にします。


「雑魚、矮小…弱すぎるだろ」


「確かに手応えのない奴だったな。雑魚憎食みだったとしても、もっと俊敏に動くはずだ」


 キユハとナキは初めて新種の憎食みと対峙したことになりますが、やはり咲楽と似たような感想を抱いていました。


(やっぱり過去の憎食みに比べて、色々と違いがあるんですね)


 咲楽は原型がなくなった憎食みを観察します。


「ナキちゃん、憎食みはどんな姿をしていました?」


「ん~…リザード系の魔物っぽかったぞ」


「また魔物の姿でしたか…」


 咲楽は顎に手を当てて考え込みます。


(一年前の憎食みは何というか、人型が崩れたような姿が大半でした。狼や鳥みたいな形の憎食みもいたけど…妙ですね)


 咲楽は憎食みの形について、何か引っかかることがあるようです。


「憎食みの姿なんてどうでもいいだろ。重要なのは強さと目的だ」


 そこでナキが咲楽の思考を遮ります。


「強さは大したことないが、こいつはセコイアに向かっていた。まさかまだ憎悪を隠し持つ輩がセコイアにいるんじゃないか?」


 憎食みが求めているものは憎しみといった負の感情です。そんな憎食みがセコイアに向けて歩を進めているということは、宿主として最適な人物がいるということを意味します。


「結論を急ぎすぎですよ、ナキちゃん」


 ですが咲楽は腑に落ちないようです。


(確かに憎食みは人の憎悪の隠れ住むけど、この近くに人里はないしセコイアまで大分距離がある。最初の一体目も気になったけど、この憎食みは何処で生まれたのかな…)


 最初に遭遇した憎食みといい、咲楽は新種の憎食みの出所が気になります。しかしまだ二体しか遭遇していないので、ピンとくる回答が出てきませんでした。


「なんにせよ…今回はあまりのんびりできそうにないですね」





 憎食みを討伐した咲楽は拠点に戻り、宿の広間に住人を集めました。


「それでは今後についての作戦会議を始めましょう」


 話し合いの仕切りはもちろん咲楽です。


「サクラお姉ちゃん、さっきのは大丈夫だったの?」


 話が始まる前にアクリは先程までの騒ぎが気になります。離れた各国よりもこの拠点が一番地面の揺れを近くで感じたので、疑問に思うのは当然でしょう。


「大丈夫ですよ。この拠点は二人の英雄が守ってくれているので、絶対に安全です」


 咲楽は笑顔でそう答えました。

 当然ですが新種の憎食みについてはアクリと葵たちには内緒です。恐ろしい生物が徘徊しているなどと、余計な恐怖を煽る必要はありません。


「話を戻しまして…外は雨が降ってますね」


 徐に咲楽は窓のカーテンを開けます。

 雨は憎食みと戦った時よりも強くなっていました。


「つまりもう少しでセコイアに到着するということです」


「セコイアではよく雨が降るの?」


 初めて多種族の国セコイアに入国するアクリはそう質問します。


「水の精霊ウンディーネさんが西の土地の魔力を管理している影響で、セコイアには“雨の季節”という周期的に雨が続く期間があります」


 四大精霊は東西南北それぞれの土地で魔力を管理しており、その特性が気候に反映されています。東のハルカナでは土が豊かで、南のソエルでは強風が吹き荒れ、西のセコイアでは雨雲が発生しやすいなどなど。


「精霊…やっぱりいるんだ!」


「四季ではなく天気の季節ですか…興味深いですね」


 まだほとんど事情を知らない葵とつつじは、作戦会議には口を挟まずヒソヒソと話し合っています。


「でもアクアベールさんが言うには、数日で雨の季節を終えて晴れるそうです。雨に降られながらの旅は危険も増えるので、晴れるまで拠点で待機する方が安全です」


「じゃあ出発は晴れてからだね」


「いえ、突然ですが今すぐ出発します。ちょっと急ぎの用ができたので」


「…?」


 アクリは不思議に思いました。

 今までずっと計画的にのんびりしていたのに、今回の咲楽にはあまり余裕がないように見えたのです。


(早めにセコイアの人たちに憎食みの報告をしないと)


 憎食みが現れたことで、咲楽の立てていた計画は大きく狂いました。前回の憎食み遭遇の事後処理はクロバに任せてしまいましたが、今回は自分がその役割を果たさなければなりません。


「それで葵ちゃんとつつじちゃんなのですが」


 次に咲楽は異世界の客人に目を向けます。


「もう異世界は堪能したことですし、二人は先に地球へ帰った方が…」


 憎食みが現れる上、セコイアの現状は不明。

 この状況で無力な二人を同行させるのは危険でしょう。


「まだ帰れないよ!」


 ですが葵は強引に咲楽の言葉を被せます。


「ここまで来たら街の一つくらい行ってみたいよ。ね、つつじちゃん」


「…ご迷惑でなければですが」


 葵とつつじはまだ帰りたくなさそうでした。


「じゃあこうしましょう」


 そうくると思っていた咲楽は考えていたプランを発表します。


「まず私、アクリちゃん、ナキちゃんの三人で先に入国して要件を済ませてきます。なのでキユハちゃん、葵ちゃん、つつじちゃんは()()()()()セコイアに向かってください」


 まず咲楽組が入国してセコイアの現状を把握し、危険な状態だと判断したのなら二人を説得して入国を断念させればいいのです。


「了解!」


「わかりました」


 葵とつつじは同時に頷きます。


「キユハちゃん、二人のことはお願いします」


「…別にいいけど」


 キユハも渋々といった様子で了承してくれました。

 仮にまた憎食みが現れても、英雄が護衛についていれば安心です。


「ではその予定で動きましょう。早速ですがアクリちゃんとナキちゃんはすぐ旅支度をしてください」


「うん!」


「うむ」


 作戦会議が終わると、咲楽たちはすぐ行動に移ります。

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