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第203話 【葵とつつじ、異世界デビュー】




 咲楽が地球に帰って一週間が過ぎ、本日は土曜日なので学校は休みです。

 平日は学校に通い、土曜の休日に異世界へ向かい、日曜に休息をとる。咲楽はそんな生活スタイルで二つの世界を行き来することにしました。


「…よし、忘れ物はないですね」


 早朝から異世界に向かうべく、自室で荷物を確認する咲楽。学校に通いながら必要な物を入念に集めてきたので、今まで以上に物資は万端です。


「後は二人を待つだけです」


 そして今回、咲楽の旅には同行者がいます。


 ピンポーン


 するとタイミングよく玄関のチャイムが鳴りました。


「お、来ましたね」


 咲楽は駆け足で玄関に向かい、扉を開けて来訪者を迎え入れます。


「おはよー咲楽ちゃん」

「お邪魔します、咲楽さん」


 学校の友達である葵とつつじ。

 今回はこの二人が、咲楽の異世界旅行に同行することになりました。


「おはようございます。二人共、準備は大丈夫ですか?」


 咲楽は二人を家の中に招き入れます。


「もちろん!」

「言われた通りの支度はしました」


 葵とつつじの準備も万端のようです。

 さらに咲楽は初めて異世界に来る二人に、ある物を持参するようお願いしています。それも今回の新たな試みの一つです。


「そうだ咲楽ちゃん、恋ちゃんはどうすることにしたの?」


 葵はこの場に来ていない友達について尋ねます。


「仲間外れにするのは気が引けますが、恋ちゃんには秘密にしましょう」


 恋花はキユハが来ていた時に居合わせていないので、異世界について何も知りません。咲楽は異世界を知る人は少ない方がいいと判断したのです。


「そうですね…もし本当に異世界があるのなら、吹聴するのは控えた方がいいかと」


 咲楽の意思につつじも同意します。

 もう一つの世界があるという事の重大さは、中学生でも分かることです。


「さて、これで準備は整いました」


 そうこう話している内に三人は咲楽の自室に到着します。


「それじゃあ異世界に行きましょー」


「…」

「…」


 咲楽が意気揚々と手を上げますが、葵とつつじは神妙な面持ちでした。


「咲楽ちゃん。どっきり大成功の看板を出すなら今だよ」

「私たちは別に怒ったりしませんよ」


 ここまで来て二人はまだ異世界について半信半疑のようです。


 それも当然の反応でしょう。


「…これ以上説明しても無駄だと思うので、もう行っちゃいましょう」


 咲楽は異世界へ向かうべく、部屋に置いてある小さな女神像の前で手を合わせます。


「それでは女神様、ここにある荷物と三人をまとめてお願いします」


『はい、行きますよ』


 咲楽の合図で、女神様は転移魔法の光で三人を包み込みました。





 転移の光に包まれた三人は移動拠点グラタンにある宿の一室に転移しました。


「ふぅ、やっぱり拠点があると安心ですね」


 最初は魔物が徘徊する荒野の真っ只中からのスタートだったので、それに比べれば移動拠点での旅は安定感が違います。


 だからこそ、こうして同級生を気軽に招待できたのです。


「…」

「…」


 葵とつつじは息を呑みます。

 咲楽の家にいたはずなのに、目を開ければ全く違う部屋の一室。まず二人は転移という非科学的な現象を体験したことから理解しなければなりません。


 そして次にここが本当に異世界なのかを確認する必要があります。それならば必然的に外の景色が見える窓に注目するでしょう。


 咲楽の自室は角部屋なので、窓の外からはグランタートルの背後の景色が見れます。窓の外に広がるのは住宅地ではなく広大な大地。そこに徘徊するのは見たことのない魔物たち。しかもこの建物はどこかに向かってゆっくり移動しています。


「…」

「…」


 事前に咲楽から転移先を聞かされているとはいえ、実際に目の当りにしてしまったら言葉が出てきません。


「では予定通り、まずここの住人を紹介しますね。でもその前にこっちの衣服に着替えましょうか」


 そんな二人に声をかける咲楽。


「う、うん…」

「はい…」


 葵とつつじの反応は、キユハが初めて地球に訪れた時と同じでした。

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