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第191話 【ナキの同行 □】




 時刻は夕暮れ。

 様々な出来事を乗り越えたアクリは、鬼の雫に帰ってきました。


「ただいまです」


 アクリが店内に入ると、集まっていた面々は安堵の表情で迎えてくれます。


「無事だったか、アクリよ」


 まずアクリの元に駆け寄ったのはナキでした。


「は、はい。大丈夫です」


「そうか…まったく私の家来に手を出すとは、本来ならただでは済まさぬぞ。今回はサクラに免じて許してやるが」


 アクリの背後にいるルーザは、ナキに睨まれて冷や汗をかきます。後からアクリがナキの家来であると知った時も、ルーザは戦々恐々の思いでした。


「あれ、サクラお姉ちゃんは?」


 すると咲楽が迎えに来てくれないことに気付いたアクリは周囲を見回します。


「サクラならあっちでぐったりしているぞ」


 ナキが指さす先では、咲楽がカウンター席で突っ伏していました。


「ど、どうしたの…?」


「さっきまでクスタさんにベッドの上で乱暴されてたから、今は休ませてあげて」


「?」


 リリィの意味深な言葉の意味が分かっていないアクリ。


「あ…アクリちゃん…おかえりなさい」


 咲楽はアクリの声を聞いて顔を上げます。


「サクラお姉ちゃん…顔色悪いよ?」

 

 アクリの言う通り咲楽の目の下にはクマがあり、表情や声にも元気がありません。


「花の雫の準備を始めてから、ほとんど寝てないものね。後でしっかり休んでね」


 ここまで働き詰めだった咲楽を気遣うリリィ。


「そうですね…でもみんな揃ったことですし、今後の予定を話し合いましょう」


 ですが咲楽はまだ肩の力を抜きません。

 何故なら今後の予定がぎっしり詰まっているからです。


「それでクスタさん、もうソエルは大丈夫なんですか?」


 咲楽はまずクスタにソエルの状況を確認します。


「まだ完全に解決したとは言えないが、ここからは俺たちの領分だ。もうサクラは気にしなくていい」


 クスタはそう言いながらオルドとルーザを見ます。


「後のことは俺たちに任せてくれ」


「もうこれ以上、失態は許されないからね」


 ソエルを支える二人の代表はそう言い切りました。

 咲楽とアクリのおかげでソエルはいい方向に傾いています。しかしこれ以上、子供たちに頼りっぱなしでは先導者の名折れです。


「サクラとハトさんが残してくれた料理のレシピは、私が引き継ぎますよ。料理文化の発展は任せてください」


 そしてリリィも自分の意気込みを主張します。


「そうですか…なら、もう私に出来ることはなさそうですね」


 なるべく不安要素は残さずギルドの街ソエルを後にしたいと思っていた咲楽ですが、それだけ聞いて安心しました。


「じゃあ明日から、旅を再開させましょう」


 咲楽が次に向かう地は四大勢力の一つ“多種族の街セコイア”です。


「ハトさんとハツメちゃん。取りあえず街に出たら拠点に招待しますけど、すぐ孤児院に帰るなら送りますよ」


 咲楽は助っ人としてここまで来てくれたハトの予定を尋ねます。


「まだクロバくんの仕事は終わってないから、もう数日間だけお世話になってもいいかな?」


「もちろんいいですよ」


 ハトとハツメはもうしばらく咲楽の旅に同行することになりました。


「私は先にセコイアに戻ってるね~」


 そこでアクアベールが挙手します。


「サクラちゃんのことをエトワール様とルルメメ様に伝える必要があるでしょう?また一年前みたいに慌ただしくなりそうね~」


「あはは…またよろしくお願いします、ベルさん」


 アクアベールは咲楽を迎えるため、一足早くセコイアに向かうことになりました。


「アクリちゃんとキユハちゃんは、明日出発で問題ないですか?」


「うん」


「ん」


 アクリとキユハも異論はありません。


 これで明日の予定は決まりました。

 咲楽、アクリ、キユハ、ハト、ハツメの五人で明日の朝出発。移動拠点グランタートルに到着したら、多種族の国セコイアに向けて拠点を動かします。また移動中は自由時間になるので、その間に休息を取れば時間の無駄にはなりません。


「ちょっと待てーい!」


 話は終わったと思いきや、急にナキが大きな声を上げます。


「私もサクラの旅に同行するぞ!」


「…」


 咲楽は特に驚きません。

 何故ならナキがそう言うことを、なんとなく察していたからです。


「クスタさん…どうしましょう」


 咲楽は小声でクスタに耳打ちします。

 今のナキには英雄という立場があり、世界には新種の憎食みという新たな脅威があります。それが理由で今回の旅に英雄リアは同行できませんでした。


「ソエルの守りは俺一人で事足りる」


「でも、大丈夫なんですか?クスタさんは私たちの中でも戦いが不得手だって…」


「サクラの探索結果やハルカナの情報から推測するに、新種の憎食みはすぐ脅威となるものではない。今は各国の情報を集めつつ様子を見るしかない」


「…そうですね。私も調査を続けるので、四拠点を回り終えたらクスタさんに報告します」


「それでいい。どのみち俺が説得したところで、ナキは止まらないからな」


 クスタは呆れながらナキを見ます。


「さて、旅に出ることをスズハに伝えないとな」


 まだ旅の同行を許可していないのに、ナキはもうついて行く気満々です。


「ふふ…でも、よりいっそう賑やかな旅になりそうです」


 最初はノームと女神様だけでしたが、ハルカナ王国でキユハとアクリが加わり、明日からは六人での旅となります。


 最初の旅でもそうでしたが、旅する仲間が増えれば増えるほど咲楽は嬉しい気持ちになるのでした。




挿絵(By みてみん)

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