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第187話 【内乱の解決案】




「話はまとまったか?」


 オルドとルーザが決断に迫られているその時、クスタが一人で現れました。


「…」


「…」


 嫌そうな顔でクスタを迎えるオルドとルーザ。


「言いたいことがあるのだろうが、後にしろ。この内乱を終わらせるんだろ?」


 まるでこれまでのやりとりを聞いていたかのように、クスタは話を進めます。


「内乱の事後処理は大仕事だぞ。乱れ散らかった秩序を整え直し、他国から支援に来ていた者たちにどう報告させるか。それと…事の発端である反対派の処罰も決める必要があるだろう」


「ち…」


 ばつが悪そうに目を伏せるルーザ。

 約一年間も国内で争いを先導していたのです。このまま何の罪にも問われず許されてしまったら、どこかの輩が再犯を企む危険性が生まれるでしょう。


「そこでだ、ここに妙案があるのだが…」


「ちょっと待て、クスタ。あんたの意見なんて求めてないぞ」


 するとオルドが強引に話を遮ります。

 この内乱の結末は三人で決めるという結論を出したばかりです。それに二人はもう、クスタに振り回されるのはこりごりでした。


「おーい、アクリ」


 ですがクスタはお構いなしでアクリを呼び出しました。


「あ、はい」


 呼ばれたアクリは周囲の人たちにお辞儀をしながら、クスタたちの元に駆け寄ります。


「あの…クスタさん、これで良かったんですか?」


 まずアクリは恐る恐るクスタにそう尋ねました。

 これまでずっとクスタの指示を頼りに行動して来ましたが、それが正しかったのかどうか今でも自信を持てていません。


「ああ、上出来だ。お前はサクラと違って素直で助かった」


「ほ…」


 それを聞いて安堵の息を吐くアクリ。

 しかし、アクリの役割はまだ終わっていません。


「ところでアクリよ。これから内乱を終わらせる話し合いが行われるのだが、お前の意見を聞きたい」


「え、私の意見ですか?」


「そうだ。お前はこの争いを引き起こした反対派をどう始末したい?」


「…?」


 どうして子供の自分に意見を求めるのかアクリは疑問でした。まだ英雄アーグの娘という立場がどれだけ特別なのか自覚していないのでしょう。


「…私は、サクラお姉ちゃんに相談したい」


 しばらく考えて出した答えはこれでした。


「サクラお姉ちゃんなら、きっと正しい答えをくれるはずだから」


 アクリは自分よりも、過去に世界を平和にした咲楽から意見をもらうべきだと主張します。


「そう言うと思って、サクラからある提案を受けている」


 そしてアクリがそう言うのもクスタの計画の内です。

 記憶封印により知名度を失った咲楽には発言力がありませんが、アクリという特別な立場の声を介せば咲楽の意見は無視できないものになります。


「この解決案を受け入れるかどうかは、オルドとルーザの二人で決めればいい。それで文句はないだろ?」


「…」


 オルドとルーザは反論せず大人しくしています。

 すっかり話の主導権を握られてしまいましたが、この一連の騒動の中心人物である咲楽の意見は聞くべきだと判断したようです。


「サクラはこう言っていた」


 クスタは崖下のカテンクで聞いた咲楽の提案を伝えます。





「内乱を止める必要はないと思います」


 まず咲楽はそう言い切りました。


「…詳しく話せ」


 それはクスタにとって耳を疑う言葉でしたが、すぐ否定はせず話を続けさせます。


「抱え込んでいる悲しみや不満を発散させる活動自体、そんなに悪いことじゃないと思います。感情を吐き出せないとハルカナ王国みたいに活気がなくなり、それが原因で憎食みが生まれてしまうかもしれません。現に争いが起きていたソエル近辺に憎食みの気配はないですし」


 咲楽は目に見える争いではなく、人々が抱えている負の感情に着眼点を置いていました。


「そこで内乱を計画的に、意図的に、大々的に起こすんです」


「ルーザのように俺たちの手で争いを起こすのか?」


「といっても過激なものじゃないですよ。例えば私の世界にはトマト…トトマの実を投げつけ合うお祭りがあります。どんなに喧嘩して争って、街中が真っ赤に染まっても誰も怪我をしない争いです」


「…サクラの世界は不毛なことをするのが好きだな」


「私から見れば、戦争や内乱の方がずっと不毛ですけど」


「…」


 咲楽はたまにクスタや大人たちが反論できないような意見を突っ込んでくる時があります。


「感情を解放させる機会を作ることも、この世界には必要なことだと思います。年に一回くらい賛成派と反対派に分かれて大暴れして、終わったら和解して美味しい料理を囲んで宴をするんです」


 ハルカナ王国でゲームを流行らせたように、内乱も一つのイベントに昇華させようと咲楽は考えたのです。


「どうですかね…?」


「…」


 クスタは静かに熟考します。

 咲楽の発言はいつも子供じみていますが、異世界人にはない新しい発想を生み出してくれます。その価値を見極めることもクスタの仕事です。


(突拍子のない案だな…それで丸く収まるとは思えない)


 まともな異世界人なら一蹴するであろう奇策ですが、クスタは咲楽のもつ可能性を侮ったりはしません。


(だが、何でもありのソエルらしい解決法かもな)

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