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第186話 【ソエルの人気者】




 一方その頃、大急ぎで海岸のカルカクに向かったオルドとルーザ。街に着いたらまずアクリの捜索に動くつもりでしたが、二人はすぐ違和感に気付きます。


「…なんか街に活気があるな」


「妙ね、私がいた時とは雰囲気が違う」


 住人たちの様子がどこか楽し気で、何かを喜び合っているようでした。こんなにカルカクが賑わうのは終戦の時以来です。


「おい二人共、どこに行ってたんだ!?」


 すると通りすがりの男がオルドとルーザに声をかけてきます。


「この街にアーグさんの娘さんが来ているんだ!今“弔い風車”にいるらしい」


 弔い風車。

 それが海岸のカルカク頂上にある場所の名称です。


「あそこから脱走して、なんであの場所に…?それにもうその情報が街中に広まっているのね」


 ルーザが鐘を鳴らして弔い風車に集まり、内乱会議を開いてカルカクに向かったのはほんの数時間前です。その短い時間で、海岸のカルカクは大きく変化していました。


「これもクスタの仕業だろうな」


 この作為的な状況に、流石のオルドも感づいたようです。


「…あんたは知ってたの?あの子がアーグの娘だってこと」


 ルーザは疑り深い目でオルドを睨みます。

 もう急ぐ必要がなくなったので、二人は状況を整理しながらゆっくり歩を進めました。


「知らなかった」


「本当?」


「総長とリリィは知っていたみたいだがな」


 今になってオルドは、クスタたちの言っていた奥の手が何だったのかを理解します。


「もし最初から知っていれば、俺は恩人の娘を危険に晒す作戦に食って掛かっていた。だから奴は隠していたんだ」


「ふぅん…私がアクリを誘拐することも、奴の計算の内だったのね」


 最初からクスタの手のひらの上で踊らされていたことを知り、二人は脱力したため息を吐きました。


「…やはりあいつのやり方は気に入らん」


「それについては同感ね」





 カルカクの頂上である“弔い風車”に到着したオルドとルーザ。


「…」


「…」


 ここは死者を弔う寂しい場所なのですが、今はそうとは思えないほど賑わっています。


「あれがアーグさんの娘か。確かに面影がある」

「あの人の娘さんに会える日が来るとは…長生きはしてみるものだ」

「俺にも話させてくれ、渡したいものがあるんだ!」


 人だかりの中心にいるアクリは、まるで親戚のおじさんおばさんに囲まれる孫のようにもてはやされていました。


「ど、どうも…父がお世話になりました」


 アクリは大勢の大人に囲まれていますが、これまでの経験が生きたのか落ち着いたものです。


「すごい人気だな…まぁ当然か。カルカクでなら多くの者がアーグと面識がある」


「そんで誰彼構わず娘自慢してたんだから、そりゃこうなるわよ」


 遠くからアクリの様子を見守るオルドとルーザは、どこか嬉しそうでした。


「お、やっと来たな」


 すると二人の存在に気付いたカルカクの代表である親っさんが声をかけてきました。


「ルーザ、ここで何が起きたのか…説明は必要か?」


「いえ、もう大体の事情は察せるわよ」


「こうなってしまったら、もう誰も争いを望まないぞ…俺を含めてな」


 そう言って肩をすくめる親っさん。

 確固たる意志で同盟を反対していたはずですが、アクリと話してすっかり戦意喪失していました。


「こうも容易く追い詰められるとはね…」


 もはや反対派に組織としてのまとまりはなく、仮にルーザがやる気でも統率は取れないでしょう。同盟反対派代表のルーザは、まさに崖っぷちの状況です。


「そこでだ。反対派の今後についてはルーザ、オルド、アクリの三人で決めろ」


 親っさんは二人にそう告げました。


「それでいいのか?」


 オルドは親っさんの意思をしっかり確認します。


「三人の決断ならアーグも納得するだろう。俺たちはそれに従う」


 親っさんの言葉に数人の有力者たちも頷きました。アーグが最も信頼する二人と愛娘の決めたことならば、どんな結果であろうとも受け入れる所存のようです。


 果たしてオルドとルーザ…そしてアクリの三人は、どのような形でこの内乱を終わらせるのでしょう。


 いよいよ決着は間地かです。

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