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第17話 【土の精霊ノーム】




「ふぅ…ここならコボルトの縄張りの外です」


 なんとか咲楽は孤児院まで続く川の付近まで逃げることが出来ました。大きな荷物を抱えたまま魔物から逃走できたのは、女神の権能による魔法のおかげです。


「久しぶりに使いましたが、本当に使えました」


 咲楽は手の甲に刻まれた女神の証を撫でます。


 女神様いわく、神力とは生命の力。

 生命力は身体を活性化させ肉体を強化し、命を循環させ異世界を渡り歩き、時を刻み歴史に存在と記憶を残します。その魔法は咲楽や人間では理解できない、人知を超えた神の御業です。


 咲楽は女神様から、その力の一端を授かっています。

 魔法を使うセンスがない咲楽ですが、女神様の力だけは冒険の中で上達し器用に扱えるようになりました。強化魔法は小、中、大と使い分けることができます。


「やっぱり怖いですね…一人だと」


 いきなり魔物と遭遇し、この先の旅が不安になる咲楽。

 いくら強化魔法が使えても、元々の身体能力が高くない咲楽が使っても効果が薄いです。しかも女神様の力には攻撃に使える魔法が一つもありません。


『それでしたら、精霊を呼んで護衛をお願いしてみてはどうでしょう?』


 その様子を見た女神様が咲楽に声をかけます。


「え…いいんですかね?そんな気軽に精霊さんを呼んで」


『大丈夫です、私から事情を伝えます』


「……でしたら、土の精霊を呼び出してみましょう」


 咲楽はキユハから貰った土の精霊石を取り出します。その精霊石に神力を注ぎ、口元に寄せ電話のように語りかけました。


「もしもし、ノームくん。聞こえますか~?」


 ………


 ……


 …


 ゴゴゴ


 突如、大地が揺れます。


 広大な大地の何もない空間から、一匹の蛇が可視化するように実体化しました。

 その姿は蛇と呼ぶには妙に腹部が膨れ上がっており、地球で言うところの“ツチノコ”に近い外見です。体長は咲楽よりも遥かに巨大で、圧倒的な存在感を放っています。


「ふぁぁ……」


 ツチノコは大きな欠伸をしながら、小さい咲楽を見ます。


「本当にサクラだ、久しぶりだね。十日ぶりくらいだっけ?」


「一年ぶりですよ、ノームくん」


 土の精霊ノーム。

 異世界プレザントを管理する偉大なる四大精霊の一体。四大精霊と女神の証をもつ咲楽とは契約関係にあり、かつて憎食みとの戦いで共闘した間柄です。


『お久しぶりです、ノーム』


「!?」


 女神様の声を聞いて、ノームは慌てて背筋を伸ばします。

 四大精霊は創造神たる女神様の力によって生み出された存在です。そんな精霊たちの生みの親である主神と言葉を交わす機会は早々あるものではないので、ノームは緊張していました。


「おお……創造主の女神様。お久しぶりです」


 慌てて頭を下げるノーム。


『お呼び出しして申し訳ないのですが、私たちのお願いを聞いてもらえませんか?』


「はい、女神様とサクラの願いなら断る理由はありません」


『またサクラがプレザントを旅することになりました。どうかサクラを外敵から守ってあげてください』


「え?それなら僕よりもっと真面目な精霊に頼んだ方が…」


 ノームは咲楽を見ます。


「いえ、今回の旅は楽しむことが目的です。でしたら四大精霊の中でもノームくんが適役なのです」


 咲楽は他の水、火、風の精霊を思い出します。

 優しいけれど真面目すぎるウンディーネ。怒りっぽくて人間嫌いなサラマンダー。臆病で気の弱いシルフ。どの精霊ものんびりした冒険のお供には適しません。

 他よりも少し気の抜けた、おおらかな心をもつノームが適任だと咲楽は考えたのです。


「僕が適任なら、護衛を引き受けます」


「ありがとうございます!」


 こうしてノームが咲楽の仲間になりました。


 いきなり土の精霊を仲間に加えられるのは、強くてニューゲーム状態である咲楽の特権です。ノームに勝てる魔物は、このプレザントには存在しません。


「サクラに合わせて、人の姿になろうかな…」


 そう言ってノームは姿を変えます。

 強大なツチノコの姿が収縮し、ノームは咲楽より少し幼いくらいの小柄な少年に変身しました。


「この姿の方が目立たなくていいよね」


「そうですね。他の人が精霊を見たらビックリしてしまいます」


 女神様や土の精霊ノームは、プレザントでは神話に出てくる尊い存在です。人前に出れば大騒ぎになってしまうでしょう。


「では出発しましょう!やっぱり冒険の仲間が増えると嬉しいですね」


「女神様同行の旅って、前代未聞だけどね…」


『ふふ、がんばりましょう』


 こうして咲楽は、一風変わったパーティーで旅を再開させました。

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