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第180話 【アクリの冒険②】




 地下牢から脱出して地上に向かうアクリは、まず嗅いだことのない磯の香りが気になりました。


(不思議な匂い…何の匂いだろう?)


 ずっとハルカナ王国の国内で暮らしていたアクリは海を知りません。なのでこの街の頂上に辿り着けば、初めて海を知ることになります。


「う…」


 階段を上り終えると、久しぶりに浴びる日光でアクリは目を細めます。


「わぁ…風車がいっぱいある」


 まずアクリの目に入った物は、大きくて立派な風車の数々です。遮蔽物の少ない海岸のカルカクは強風が吹き荒れており、その風を利用して風車による風力発電…ではなく風力発魔をしています。

 街の作り自体は崖下のカテンクと変わりはありませんが、こちらは建物を積み上げておらず高さは平均的です。


「………」


 カテンクとはまた違う個性的なカルカクの景色に圧倒されるアクリですが、呑気に観光している場合ではありません。


(とにかく上に続く階段を探そう)


 脱獄の身であるアクリは小走りで、この街の頂上を目指しました。





「あれ、行き止まり」


 階段を上ってアクリが進んだ先は袋小路でした。


 やはり街の作りはカテンク同様かなり複雑なものになっています。ひらけた場所にも出れないので、どの方向に進めばいいのかも分かりません。


「ちょっと、そこのあんた」


 するとアクリの背後から声がかかります。

 脱獄がバレて追手が来たのかと、アクリはドキッとしました。


「もしかして頂上に行きたいのかい?」


 アクリが振り向くと、そこには気の良さそうなおばさんがいました。見たところ追手ではなさそうです。


「は、はい!」


「だったらあっちの階段を降りな」


「降りるんですか…?」


「うちの頂上は海岸にあるんだ。まずは上じゃなくて、潮の香りと波の音を頼りに進みな」


 幅広く開拓されたカルカクは、カテンクと違ってただ上に登ればいいというわけではありません。この入り組んだ街並みを抜け、上ではなく海を目指すことが先決です。


「この街は初めてかい?」


「はい…」


「なら初めて海を見るんだね。楽しみだねぇ」


 親切なおばさんは手を振ってアクリを見送ってくれました。





「頂上ならあの一番大きな風車を目指しな」


 その後もアクリは道行く人に導かれながら、カルカクの街並みを進んで行きます。


(どうしてみんな親切にしてくれるんだろう…これもサクラお姉ちゃんの言ってた、ソエルの懐の広さなのかな)


 思わぬ展開にアクリは拍子抜けしていました。

 反対派の拠点がある街なので、見るからに部外者である自分は冷たくあしらわれても仕方がないと思っていたからです。


「見えた、あれがこの街の天辺だ」


 そしてアクリはついに、この街で最も高い建造物の前に到達しました。その立派な塔のような建物がどのような設備なのか、外観だけでは判断できません。


(この頂上がクスタさんに行くよう指示された場所)


 目的地は目前ですが、ここで最後の関門が待っています。建物の中に入ると、階段前に門番らしき強面の男が足を組んで座っていました。


「…」


 強面の男は来訪者であるアクリを威嚇するように睨んでいます。


(…もう引き返せない)


 ですが今のアクリに引き返すという選択肢はありません。堂々とした足取りで受付に向かって行きました。


「すみません、ここを通ってもいいですか?」


「…」


 強面の男は値踏みするようにアクリを観察します。


「なるほど…あいつの言ったことは本当らしいな」


 すると強面の男は、納得したように頷きます。


「いいぞ、通してやる。だが代わりに頼まれてくれねえか?」


「?」


「この先…カルカクの頂上には、英雄の像が置かれている。その像にこの酒を供えてくれ」


 アクリは強面の男から、果物が丸ごと入った酒瓶を渡されました。


「は、はい」


 通してくれるのならばとお酒を受け取るアクリ。


(英雄の像…クスタさんのかな、それともナキさん?)


 英雄といえば九人の英雄ですが、アクリは知りません。このギルドの街ソエルにはそれ以前から英雄が存在していたことに。


(ついに頂上だ…)


 果たしてその先に何が待ち受けているのか、アクリはお酒を抱えて頂上に続く階段を上ります。

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