第177話 【タコ料理】
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~タコのからあげ串~
①タコを一口サイズに切り分け塩で下味をつけ串に刺します。そして薄力粉と旨味の粉末を混ぜ合わせた衣をまとわせ油で揚げ、最後にミックススパイスをかければ完成です。
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「まずは揚げ物からご賞味ください」
最初に咲楽が振舞った料理は、シンプルなタコのからあげです。
「おお、タコなのに旨い」
「それにこのタコ、全然固くないな…」
スズハとクマツキは味にも驚いていましたが、あれだけ固かったタコが柔らかくなっていることにも注目します。
「魔物だけあって苦労しましたが、私の世界の調理法が通用して良かったです」
料理が好評で、得意げに胸を張る咲楽。
どうしてギルドの街ソエルのタコが硬かったのか、それはちゃんとした下処理法が確立されていなかったからです。加えて相手は異世界の魔物、一筋縄ではいきません。
ですが咲楽は料理上手のお母さんから料理を学んでおり、タコの調理法を熟知しています。
「へぇ~どうやって柔らかくしたんスか?」
「まずタコは棒などで思いっきり叩いて、筋肉繊維を壊します。それから水でよく洗ってから、塩を揉みこんでしっかりぬめりを取ります。それからタコを茹でるのですが、茹ですぎると固くなるので上下で十分ずつですね。茹で終わったら氷水に浸けて…」
「めちゃくちゃ手間がかかってるんスね」
好きなことに対してなら全力で打ち込めるスズハですが、ソエルの嫌われものであるタコに対してそこまで手間をかけられる咲楽に関心していました。
そもそもソエルの歴史はまだ浅く、今は食料が充実している戦後。様々な条件が重なったことで、ソエルの住人はタコに無関心だったのです。
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~タコのアヒージョ~
①鍋にオリーブオイルを注ぎ、旨味の粉末、にんにく、各種キノコ、彩り野菜、ベーコン、タコを入れて煮込み、塩で味を整えれば完成です。
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「お次はタコが主役のアヒージョといいます」
こちらはルーザに振舞ったオイル煮のタコバージョンです。
「アヒージョってどういう意味っスか?」
熱々のキノコとタコを頬張りながら、スズハは聞き慣れない料理名について尋ねます。
「えっと…あまりに美味しくてついアヒーと叫びたくなるから、そう呼ばれるようになりました」
残念ながら咲楽の回答は不正解です。
ですがこの異世界に正解を知るものはいないので、誰もツッコミません。
「アヒーっスか。確かに納得の旨さっス」
特に疑うことなくアヒージョを受け入れるスズハ。
「これ、にんにくの鱗茎か」
そしてクマツキは料理の中に潜んでいる、ある食材に目を付けました。
「そのにんにくがアヒージョの決め手になっているんです。ハルカナ王国にはありませんでしたが、ソエルににんにくがあってよかったです。しかも私の世界と同じ名前で」
この世界には苺や唐辛子といったものはありませんが、リンゴやオリーブに類似するものはあります。また各国で食材に特色があるので、どの国に何があって何がないのか…咲楽はまだ全てを把握できていません。
それでも美味しい料理を生み出すには十分でした。
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~タコ焼き~
①この料理を作るには、スズハに発注した特殊な鉄板が必要です。小麦粉、揚げ玉、タコ、ネギ、削り節などの材料はソエルの街で揃えることが出来ました。
②小麦粉を水で溶いて生地を作り、油を敷いた鉄板に生地を流します。そして用意した材料を生地の上から加え、焦げないように串で転がしながら形を整えます。
➂味の主役となるソースたちですが…ソースはハトが生み出した万能ソースを作る際、食材の繊維質を敢えて残して中農ソースを作ります。マヨネーズは卵、塩、酢、オリーブオイルを混ぜ合わせて作りました。
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「最後の品が今回の主役、タコ焼きです」
それは日本人なら知らない者はいない、タコの定番料理です。
「あの道具は、これを作るための物だったんスね」
スズハは咲楽からの不可解な注文に納得します。タコ焼きのまん丸を作り出すには、どうしてもタコ焼き用の鉄板が必要だったのです。
「なんだこれ、うま!」
タコ焼きを口に含み、今日一番のリアクションを見せるクマツキ。
「ほんとっスね、酒が進むっス」
スズハも熱々のタコ焼きと冷たいエールを交互に味わいます。
(タコと聞いてから、ずっとこれが作りたかったんですよね。キユハちゃんも地球でタコ焼きを味わった時、太鼓判を押してくれたので自信をもって提供できました)
試作に試食と長い道のりを得て、ついに咲楽はプレザントの食材だけでここまでの料理を生み出すことに成功しました。これも多くの仲間たちの協力があったおかげです。
(この料理で、タコの悪い印象が少しずつ改善できたらいいのですが)
食文化というものは一長一短では変わりません。ですがこの料理たちは、間違いなくタコの悪い印象を変えるきっかけになるでしょう。
「明日からはタコ以外の料理にも着手していきますよ」
「そりゃ楽しみっスね。また明日、昼休憩にでもお邪魔するっス」
「スズハさんは明日も街の復興で働くんですよね?でしたら私が料理を用意して伺いますよ」
「それは嬉しいっスけど…いいんスか?」
「もちろんです!」
ソエルで咲楽がしたかったことは、店を構えて商売をすることではありません。街の復興で働く人たちに無償で料理を提供するボランティアこそが本命です。