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第171話 【ナキの家来】




「話は聞いてるけど…今回は今までにない大仕事になりそうっスね」


 ナキに呼ばれてやってきたその人物は、咲楽たちの活動を興味深そうに観察します。


「あらスズハさん。あなたも呼び出されたの?」


 リリィがスズハと呼ぶその女性は、一見すると男性のように見えました。短い髪を手ぬぐいでまとめ、もんぺのような作業服を着ており、女性らしい印象を削ぎ落したような身なりです。


「あ、スズハさん!」


 そして咲楽はこのスズハとは、前の旅で面識がありました。


「あれ、初対面っスよね?もしかして私の顔って、外国で有名になったんスか?」


 ですがスズハは記憶封印の対象者ではないので、咲楽を思い出していません。オルドやルーザと同様、封印解除の候補として保留にしています。


「あ…えっと、私が一方的に知ってただけです」


 一瞬だけ寂しい気持ちになる咲楽。


「ハトよ、こいつは私の家来のスズハだ。この街を作った伝説の大工棟梁の一番弟子なんだぞ」


 ナキは初対面であるハトに、軽くスズハを紹介します。


「一番弟子は私じゃないんだけど…まあいいや、よろしくっス。言葉使いの拙さは勘弁してほしいっス。礼儀を教えられない環境で育ったもので」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。最近ナキさんの家来になったハトです」


 二人は握手を交わします。


「もしかして、ハトも勝手に家来にされたクチっスか?」


「えっと…無理矢理ではないですよ?」


「本当っスか?うちのナキが迷惑かけてないといいスけど」


 やれやれといった仕草でナキを見るスズハ。


「なんだそれは、私が人に迷惑をかけるわけがないだろ」


 ナキは聞き捨てならぬと文句を言ってきました。


「そうスか…ナキも英雄になったんだから、もう少し主らしい振る舞いをしてほしいっスね」


「むー…威厳ならあるだろう」


「威厳のある人は、そうやって頬を膨らませたりしないっスよ」


 スズハはまるで保護者のようにナキと接します。そのやり取りには主従関係があるようには見えず、まるで親子か姉妹のようです。


「…」


 ハトはそのやりとりを見て拍子抜けしていました。


「スズハさんはナキちゃんの名付け親で育ての親なんです。ハトさんとハツメちゃんの関係に近いですね」


 咲楽は追加でスズハについてをハトに話します。


「え、そうなの?」


 英雄ナキの意外な人間関係に驚くハト。


「でもスズハさんも、ナキさんの家来なんだよね?」


「ナキちゃんにとっては家来が家族なんですよ」


 ナキは鬼人族最後の生き残りです。

 そんなナキにとって、血縁関係などどうでもよいのでしょう。自分の気に入った者だけを家来にして、家族のように愛する…それがナキにとっての主従関係なのです。


「そっか…思っていたよりずっと特別な存在なのね、ナキさんにとっての家来って」


 家来認定されたハトは、ナキとの接し方について改めて考え直すのでした。





「そっちの女の子もナキの新しい家来っスね」


 ハトとの挨拶を終えたスズハは、咲楽に目を向けます。


「はい、咲楽と言います。よろしくお願いします」


「よろしくっス」


 二人が初対面の挨拶をするのはこれで二回目です。

 前の旅で咲楽とスズハは、()()()()()について一緒に考え合った仲でした。もし信仰の回復に余裕が出来たら、オルドとルーザを含めて記憶封印を解除するかもしれません。


「終戦してから初めての家来認定っスね」


「今までナキちゃんは家来を増やしてなかったんですか?」


「そうっス。ソエルの街を出て見聞が広がったんスね。家来認定の敷居が高くなって、今のナキの心を動かす個性を持つ人なんてそうはいないっス」


「そっか…ナキちゃんも成長しましたからね」


 初めて会った時のナキは、どんなことにも興味を持つ好奇心旺盛の女の子でした。ですが世界を救う旅で多くの経験を得て、咲楽や英雄といった個性豊かな仲間たちと出会いました。

 そんなナキの欲求を満たせる人材はそうそう見つからないでしょう。


「それはそうと…私が呼び出されたってことは、何か作ってほしいんスよね?」


 話を戻して、スズハはここに呼び出された理由をナキに尋ねました。


「そうだ。スズハは何でも作れるから、サクラたちは思う存分頼っていいぞ」


 ナキがここにスズハを呼んだのは、国おこしの活動をする咲楽の助けになると考えたからです。


「何でもは作れないっスよ。人が作れる物なら大概は作れるっスけど」


 そう付け加えるスズハ。

 ですが前の旅で面識のあった咲楽は、スズハの得意分野を知っています。


「スズハさん!あらゆる技巧を取得したスズハさんにお願いしたいことがあります」


「お、おお?」


「実はこのような調理器具が必要なのですが…スズハさんなら作れますかね?」


 咲楽はこんなこともあろうかと用意していた、調理器具の絵が書かれた手帳をスズハに見せます。


「へぇー絵上手いな……うん、この程度なら朝飯前っス」


「おお…流石はスズハさん、物作りに関しては頼りになります」


 大工棟梁の弟子であるスズハの特技は、物を作ることです。それも木造だけではなく、魔物の素材、魔道具、鉄、土、ガラスなど様々な物を扱う技術を有しています。


(…不思議な子だな。なんだかこの少女とは、初対面って感じがしないっス)


 まるで自分のことをよく知っていると言わんばかりの咲楽に、不思議な親近感を覚えるスズハ。


「それとこの花の雫を使いたいのですが、少し修理が必要なんです」


「修理ならうちの組が引き受けるっスよ。中の掃除と片付けは終わってるみたいだし、明日一日もらえれば完璧に修理してみせるっス」


「ありがとうございます!」


 スズハの技術は、咲楽とハトの足りないものを全て補ってくれました。


「ふふふ…私の家来が力を合わせれば無敵だな」


 ナキは嬉しそうに集まった面々を見回します。

 様々な知恵と人脈で下準備をするリリィ。咲楽から料理の知識を伝授されたハト。どんな物でも作れるなんでも屋のスズハ。地球という異世界の面白い知識を持つ咲楽。


 個性豊かな家来たちは戦うことではなく、国おこしのことになれば英雄よりも心強いです。


「ここにアクリがいれば、全員揃って完璧だったのにな~」


 唯一の不満を溢すナキ。

 もしここにアクリがいれば、ナキの家来が勢揃いしていました。


「ナキちゃん…」


「安心しろサクラ、もう力でどうにかするつもりはない。子供みたいに暴れていたら威厳がなくなるからな」


 スズハに言われたことを気にしているのか、ナキは強がります。そんなところが子供っぽい…と誰しもが思いますが、野暮なことは言いません。


「それじゃあハトさん。お店の修理はスズハさんに任せて、明日は鬼の雫で料理についてを考えましょう」


「うん。うふふ…やっぱりサクラちゃんの旅は忙しいね」


「これからも大変ですよ~」


 咲楽は今日も明日も大忙しですが、それを億劫に感じたりはしません。ソエルのみんなを笑顔にするための一歩なら喜んで踏みしめます。

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