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第168話 【咲楽の国おこし作戦】




 その日の夜。

 アクリの件の話し合いを終えて、夕食を済ませて、ようやく人心地ついたところです。


「ハツメちゃん、もう寝ちゃった。初めての長旅だったからね」


 二階から降りてきたハトは咲楽たちと合流しました。

 

「なんだか大変なことが起きてるみたいね…」


 アクリ失踪の件について、ハトは大方の事情をリリィから聞いています。


「そのアクリって子が行方不明らしいけど…もしかして私やハツメちゃんも危なかったり?」


「二人は絶対に大丈夫です!ハトさんはナキちゃんの家来の証を身につけていますし、ハツメちゃんには私の証を貸したので安心です」


 咲楽はそう断言しました。

 ナキの家来に手を出す輩は、ソエルの住人には一人もいません。本来なら証の貸し借りは禁止なのですが、今回は事態が事態なのでナキも許可してくれました。


 因みにアクリは家来認定をされたものの、ナキはその翌日に孤児院へと向かったので証を貰っていませんでした。


「二人の身の安全は私が保証します」


 そこでリリィも会話に加わります。


「お越しいただいて早々、お見苦しいところを見せてしまってすみません…」


「いえいえ、私も覚悟してここまで来ましたから」


 お互いに気を遣い合うリリィとハト。

 英雄たちに比べ、この争いを好まないコンビは安定感があります。


「アクリちゃんの件はクスタさんに任せて…私たちは本来の目的通り動きましょう」


 コホンと咳払いをする咲楽。


 この場には咲楽、リリィ、ハトの三人が集まりました。

 これでようやく国おこしについての話し合いが始められます。アクリのことも心配ですが、クスタに任せると決めた以上咲楽は信じて待つしかありません。


「えっと…サクラはこの街で、美味しい料理を流行らせたいんだよね」


 まずリリィが咲楽の計画についてを確認します。


「はい。戦争で傷ついた人や復興で働く人たちに、美味しい料理を振舞って元気づけたいと考えています」


「なるほど、つまり()()()()みたいなものね」


「ただ…作る料理と人手は大丈夫になりましたが、問題は食材と場所です」


 調味料のおかげで作る料理は決まりましたが、料理に必要な食材を集められるのか。ハトの協力があれば調理は問題ないでしょうが、どこで料理を広めれば良いのか。課題はまだ残っています。


「食材はどんなものが必要なの?」


「えっと…これです」


 ハトは調味料のレシピが書かれた紙をリリィに渡しました。


「ふむふむ…」


 しばらくレシピに目を通すリリィ。


「…うん、全部集められると思う」


「本当ですか?」


「ハルカナ王国固有の食材はほとんどないからね。巨木のリンガクに知り合いの青果店と八百屋があるから、発注は任せて」


 こういった場面で、リリィの人脈が頼りになります。


「それで場所なんだけど…実はカテンク壱階に、私が所有してる酒場があるんだ。立地も悪くないし、そこを使うのはどうかな」


「使っちゃっていいんですか?」


「鬼の雫に移転してから、ずっと放置されてる建物だから大丈夫。ちょっと掃除が必要だと思うけど」


「ありがとうございます!」


 咲楽の計画が、少しずつ現実味を帯びてきました。





 その後も三人の話し合いは続きます。

 まず必要な調理器具、食材、食器、その他物資などをリストアップ。さらにどのような体系で料理を提供していくのか、資金や運営の仕組みも考えなければなりません。


 話し合いはとても一夜では済みませんでした。


「もう遅いですし、そろそろ休みましょうか」


 咲楽とハトも長距離移動で疲れが溜まっているので、そろそろ体力の限界です。


「そうね。皆さんは今日もここの宿を使いますか?」


 リリィは酒場の隅で集まっているアクアベール、キユハ、ナキに声をかけます。キユハたちは咲楽がいない間、二階の宿を借りていたようです。


「ご迷惑でなければ~」

「ん」

「むう…」


 そんな中、一人だけ不機嫌そうに呻くナキ。


「ナキちゃん、まだ納得してないんですか?」


 咲楽はナキの隣の席に座ります。


「当たり前だ…サクラとキユハも、なんでそんな冷静でいられる」


 アクリ失踪の件で、ナキはまだ不貞腐れていました。


「だってクスタさんがあんな失敗をするとは思えません。きっと何か作戦があるんだと思います」


「不変、恒常…前もそうだっただろ。あいつのすることは無視するに限る」


 咲楽はクスタを信頼しており、キユハは考えるだけ無駄と割り切っていました。


「ぐぬぬ…」


 ナキも心の中ではクスタのことを信じていますが、家来の危機にじっとしていられるほど辛抱強くはありません。


「それにアクリちゃんは強い子です。時には家来の力を信じてあげてください」


「……家来を信じるか」


 鬼の力を有するナキにとって、それは難しい悩みでしょう。何故なら自分以外の生物は、英雄を除いてみんな弱すぎるからです。


「それより、明日から本格的に動きます。ナキちゃんとキユハちゃんも時が来たら協力してくださいね」


 拳を握って気合を入れ直す咲楽。


 いよいよ国おこしの本番です。

 ハルカナ王国では内乱のような大きな問題はなく、国王の力もあってあっさり成功しました。ですがギルドの街ソエルの国おこしは簡単にはいかないでしょう。

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