第167話 【クスタの暗躍】
なんとかナキ姫の暴走を止めることに成功した咲楽。
「ひゃーどうなることかと思ったよ~」
「英雄同士の衝突なんて、本気で勘弁してくれよ…」
アクアベールと総長は英雄たちのやり取りに戦々恐々としていました。それなりの力と立場を有する二人でも、英雄が暴走してしまったらどうすることも出来ません。
「サクラ」
場が落ち着いたところで、クスタが咲楽を手招きします。
「はい?」
呼ばれて能天気にクスタの元へ向かう咲楽。
パチーン!
「いたー!」
そんな咲楽のおでこに、クスタはデコピンを繰り出しました。
「また余計なことをしてくれたな…いい加減にしろ」
これはナキの家来が増えたという、想定外の要素を作った咲楽へのお仕置きです。
「こ、これも不可抗力だったんですよ!」
「止められないならそれでいい、だが何故そんな重要事項を報告しなかった。ナキの家来が増えるという事の重大さ、理解できないサクラじゃないだろ」
「それは…」
クスタに秘密を話す際、咲楽は新種の憎食みの件で頭がいっぱいになっていました。昨日の些細な雑談の中でのやり取りは、頭の片隅に置いたまま忘れていたのです。
「これで三回目だからな、次はないぞ」
クスタから許された予想外の行動は残り一回。
アクアベールの加入。
新種の憎食みの存在。
ナキによるアクリの家来認定。
どれも咲楽にとっては不可抗力の事柄なのですが、クスタは容赦しません。
「で、でも…」
「異論は認めない」
「うう…」
咲楽は泣きそうです。
アクリの失踪といい、立て続けに悪い出来事が重なれば余裕ではいられません。
「ちょっとクスタさん、その辺にしなさい」
そこでリリィが泣きそうになる咲楽を庇います。
「らしくない、サクラを責めても何にもならないでしょう。そんなことばかりしてるとサクラに嫌われるよ」
「…」
クスタは反論できませんでした。
「お前はサクラが絡むとすぐ取り乱すな。感情を露にすること自体は良い事なんだが、女の扱い方を少しは学んでおけ」
その様子を見て総長は嘲笑しています。
「今更クスタさんに何されても嫌いにはなりませんが、いじける時はいじけますよ…ぐすん」
涙目になりながらクスタを見つめる咲楽。
「はぁ…」
クスタは肩を鳴らしながら、心底疲れた息を吐きます。
実際に“強化魔法(中)”の副作用により激しい筋肉痛を伴っていますが、クスタは体の不調よりも咲楽の奇行により気疲れしていました。
「とにかく、アクリの件は俺に任せろ。もう手を打ってある」
話をアクリ失踪の件に戻すクスタ。
「サクラ、最初にした二つの約束は覚えているな?」
「…はい」
クスタとした二つの約束。
“内乱が解決するまで崖下のカテンク以外の三拠点には行くな”
“自分の目的以外の事には関わらず、一つのことに集中しろ”
その約束により咲楽はアクリを探しには行けません。
「すぐには無理だが、必ず無傷でサクラの元に返す。だからサクラは目の前のことにだけ専念しろ」
※
報告すべきことを話したクスタは、酒場を後にします。
「どういうつもりだ、クスタ」
その後をオルドが追ってきました。
「何がだよ」
「この酒場が監視されていることも、あの娘が連れ去られることも知っていただろ。だからアクリに護衛は必要かと俺が提案した時、お前は必要ないと答えた」
「…」
アクリが誘拐された件で、オルドに落ち度はありません。
ですがクスタは全てを知った上で何もせず、むしろアクリの誘拐を手助けするような行動までとっていました。
「これがお前が企てている内乱解決の作戦なのか?まさか俺だけが知らない、総長やリリィが言っていた奥の手にあの娘が関係しているのか?」
「ほう…昔に比べて勘が鋭くなったな、オルド」
振り返って薄笑いを浮かべるクスタ。
「だがまだ教えられない。オルドにはもう少し事情を知らないまま泳いでもらう」
「それが本当に内乱解決に繋がるのか?」
「必要のない問答だな。信じるか信じないかは自分で決めろ」
「…」
信じる道は自分で決めろ、それがギルドの街ソエルにある盟約の一つです。
「……わかったよ、お前の好きにしろ」




