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第165話 【再びソエルに入国】




 グリフォンに乗ってまず咲楽が向かった場所は、ソエルの近くで待機させている移動拠点グランタートルです。いきなりグリフォンに乗って街の中心に降りるわけにはいきません。


「かめさんの上に家…すごい!」


 到着するとすぐ探検に出かけようとするハツメ。興奮していても一人になってはいけないという約束は忘れていないようで、咲楽の服を引っ張っています。


「ほう…今回の旅は随分と充実しているな」


 初めてこの拠点に来たナキも楽し気です。


「ハツメちゃんはここでなら自由にしてていいですよ。下に落っこちないよう気を付けてください」


「うん!」


「ナキちゃんも少し自由にしててください」


「うむ」


 二人は一緒になって、拠点探検に出かけました。


「さて…ハトさん、入国する前に軽く作戦会議をしましょう」


「ええ」


 咲楽とハトは今後の活動についてを話し合います。それにハツメがいない間に、ハトにはソエルで起きている内乱について詳しく話す必要があるでしょう。


 ………


 ……


 …


「…安全じゃない状況だとは聞いてたけど、まさか内乱が起きてるなんて」


 内乱中と聞いて険しい表情を浮かべるハト。


「といっても一触即発みたいな危険な状況ではありません。距離を置いてにらみ合っている状況ですね」


「なるほど」


「それでこれから、私たちの拠点になる酒場へ向かいます。そこは絶対安全なので安心してください」


 この拠点で身支度を整えたら、次に向かうのは酒場“鬼の雫”です。争いを起こそうとする反対派でも、鬼の雫周辺で騒ぎを起こそうと考える者は一人もいません。


「そこには偉い人がたくさん集まってるよね…」


「はい、みんないい人ですよ。向こうに着いたら紹介します」


「…わかった」


 ごくりと息を飲むハト。

 これから英雄やソエルの重鎮たちと会うことになります。平民を自称するハトにとってはかなり緊張する場となるでしょう。


「でも偉い人だけじゃなく、私よりも年下のアクリちゃんという女の子がいます。その子は他のみんなと違って普通の一般人ですよ」


「あら、そんな子がいたんだ」


「きっとハトさんやハツメちゃんとも仲良くなれます」


 ここで咲楽はアクリのことを思い出します。


(そういえばアクリちゃんの予定を聞くの忘れてた…今頃なにしてるかな)


 今更ながらアクリをソエルに置いてきたことが気がかりになりますが、クスタやリリィの側にいれば問題はないと深く考えませんでした。





 こうしてソエルに入国した咲楽一行。


 ルートは崖下のカテンク東門を通過して、昇降機で“鬼の雫”のある玖階まで上がります。今回はナキも同行しているので、最初よりもスムーズに入国できました。


 因みに初めてギルドの街ソエルに入国したハトとハツメのリアクションは、アクリとほとんど同じでした。


「こちらは孤児院から来てくれたハトさんとハツメちゃんです」


 鬼の雫に着いた咲楽は、まず集まっている面々に二人を紹介します。幸いにも鬼の雫には賛成派の主力が全員揃っていました。


「そしてハトさん。この方がギルドの街ソエルの総長さんです」


「おう」


「こちらはカテンクの代表のオルドさん」


「…どうも」


「この人が鬼の雫の主人のリリィさん」


「こんにちは」


「それと…この人はソエルの人ではありませんが、私の友達で多種族の国セコイアのアクアベールさんです」


「初めまして~」


「それであっちにいるのは英雄のキユハちゃん、クスタさんです」


 咲楽はザックリとこの場に集まるメンバーを紹介します。


 一般人なら尻込みする顔ぶれですが、ハトは丁寧な物腰で頭を下げました。


「ハルカナ王国東の孤児院から参りましたハトと申します。この度は恩人サクラさんの支援、助力をするため同行しました」


 ハトは一切物怖じしていません。


 いきなり咲楽を思い出したり、唐突に女神様を呼び出したり、突然ソエルの英雄ナキが訪問しに来たりと、ハトは今まで何度も取り乱してきました。

 ですがそれは突然の出来事だからであり、心構えさせしていればハトは誰が相手であろうとも冷静でいられます。


「ほう、肝が据わっているな。流石はサクラの大恩人だ」


 その姿に感心する総長。


「このギルドの街ソエルでそこまで畏まる必要はありませんよ、ハトさん」


 ソエルの代表としてリリィが前に出ます。


「あなたのことは英雄譚で存じています。あなたが救世主となるサクラとハクア王子を保護していなかったら、英雄譚も生まれず終戦も叶いませんでした」


「いえ…私はただ孤児院で暮らしていただけの、しがない平民ですので」


「私もサクラを匿っただけで持ち上げられた、しがない酒場の亭主なんですよ」


「あら、私と似ていますね」


 二人はすぐ打ち解けていました。

 咲楽と関わった経緯といい、立ち位置や性格が似ているからでしょう。


「それで…クスタさん、ハトさんの参戦は想定外の要素として数えますか?」


 ハトの紹介が一段落したところで、咲楽は窓際の席に座るクスタの元に駆け寄ります。

 クスタから許された予想外の行動は残り二回。咲楽はそれを犯してでも、ハトの力を借りたかったのです。


「いや、想定の範囲内だ」


 ですがクスタはこうなることを読んでいました。

 お咎めはなしです。


「そうですか…やっぱり基準がよく分かりませんね」


「それより経過報告をするぞ」


 席に着くよう咲楽に促すクスタ。


「はい。ところで…アクリちゃんはどこです?部屋にいるんですかね」


 席に着きつつ咲楽は、この場にアクリがいないことに疑問を持ちます。


「…そのことなんだが」


 すると浮かない様子のオルドが会話に加わります。


「そのアクリという娘…今日の朝から行方不明なんだ」

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