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第162話 【とんかつ】




――――――――――――――――――――

 ~とんかつ~


 ①まずロックボアの肉に付いている大量の油からラードを摘出して、今回はこのラードを調理油として使用します。


 ②厚切りにした豚肉にハトさんが作ったミックススパイスをすり込み、卵とパン粉を纏わせラード油で揚げていきます。


 ③付け合わせはパンと、プレザント産キャベツである()()()()の千切り、ハト特製の粉末で作ったスープを添えます。とんかつの食べ方は塩か、ハト特製の万能ソースをかけて頂きます。

――――――――――――――――――――


 ハトの調味料と咲楽の調理技術。

 二人の料理人によって生み出された料理は、さらなる美味しさを実現していました。


「今日の料理はいつにも増して旨い…!」

「すごい食べ応え…美味しい」

「いくらでも食えそうだ!」


 仕事で疲れた騎士たちは一心不乱になって料理にありつきます。


「ふむ…やはりサクラについてきて正解だったな」


 子供たちは言わずもがな、ナキも口いっぱいに肉を頬張ります。


 とんかつはこのままでも十分美味しいですが、ここで咲楽は立ち上がりました。


「皆さん、この料理には別の食べ方があります」


 咲楽は薄く切ったパンの上に千切りキャベンと熱々のとんかつを乗っけて、ソースを塗ってパンで挟みます。


「これはカツサンドといって、パンにソースが沁み込んでよりボリューム感がでますよ」


「ほう…サンドイッチの一種ですね」


 咲楽に習いとんかつをパンに挟むローナ。


「あれ?サンドイッチを知ってるんですか?」


 サンドイッチはハルカナ王国には存在しない料理だったはずです。初めて国王たちに振舞った時、誰もが物珍しそうな反応を見せていました。


「国王様がこういう食べ方にハマっていると噂されてて、密かに騎士たちの間でも流行っているんですよ。事務仕事やチェスを遊びながら、片手間で食事を済ませられると好評です」


「へぇ~」


 それは咲楽にとって吉報でした。


(チェスだけじゃなくサンドイッチも流行ってるんだ…)


 国おこしの成果がしっかり出ていて、咲楽は内心大喜びです。


「流石はサクラちゃん、私の想像も出来ない料理を次々生み出すね」


 ナイフとフォークを使ってお上品にとんかつを味わっているハト。


「まだまだ私は未熟ね…」


「そんなことないです!私は故郷にある料理法をなぞっているだけですから。ハトさんみたいにゼロから新しい味を作るなんて出来ませんよ」


 咲楽はそう断言しました。


「それにこの万能ソース、これはすごくいいものです」


「森の果物やハルカナ王国の野菜を合わせて作ったの。サクラちゃんから託されたソースの味を目指して、ようやくこの味まで辿り着けたんだ」


「なるほど…孤児院は料理の試作にいい環境なのですね」


 この孤児院周辺の森には新鮮な山の幸が豊富にあります。そしてクロバにお願いすればハルカナ王国の食材も発注できるので、食材には事欠きません。


(このソースがあれば、ソエルであの料理が作れる…!)


 孤児院での収穫は期待以上でした。





 食事を終えて、孤児院に集まった面々は一息つきます。


「お前がハツメだな。サクラから話は聞いているぞ」


「あなたがサクラお姉ちゃんの友達の鬼さん?」


「うむ、初めてサクラがここに来た時の話を聞かせてくれないか」


「えっと~サクラお姉ちゃんは最初、すごく泣き虫で…」


 ナキはハツメとすっかり打ち解けていました。

 いつも偉そうにしているナキですが、精神年齢は年相応に幼いのでハツメとは気が合うようです。


「よお見習い二人組。今日も鍛錬は積んでるか」


「おう!」

「はい」


 リットとクグルはクロバ隊の騎士たちに囲まれています。二人は将来有望なので、クロバ隊はしっかり目を付けていました。


「ローナさん。騎士さんから聞いたのですが、料理に興味がおありで?」


「え?あ…は、はい」


 ハトは気さくにローナへ話しかけます。

 どうやらハトはローナの対抗心に気付いていないようで、ローナはとてもやりづらそうです。


「穏やかな空気ですね~」


「ああ…あのナキを連れて来た時はどうなるかと思ったけどね」


 そんな賑やかな様子をのんびり眺める咲楽とクロバ。


「ハルカナ王国は平和になったと素直に言えないが、この孤児院だけは平和だ」


 一年前まで壮絶な戦争を経験してきたクロバにとって、ここは夢にまで見た理想の空間です。これで森に憎食みが隠れていなければ完璧なのですが…


「ところでサクラ、情報の共有は必要か?」


「はい?」


 クロバは急に真面目な表情に切り替え、咲楽に小声で尋ねます。


「例の新種の憎食みの研究に進展があった。他にもハルカナ王国の居住区で、憎食みが生まる要因となったであろう事件が発覚した」


「…」


 咲楽はハルカナ王国の国おこしには成功していますが、問題はいくつも残ったままです。その問題を無視するつもりはありません。


「…いえ、今は聞かないでおきます。聞いたところで私にはどうすることも出来ないですし、今は料理の勉強に集中したいので」


 ですが咲楽はソエルの問題にだけ集中すると決めています。話を聞くならソエルの国おこしが終わった後か、一周してまたハルカナ王国に戻ってきた時になるでしょう。

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