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第156話 【反対派の打つ手】




 英雄たちの話し合いが一段落したところで、酒場の扉が開きます。


「…」


 下層の様子を見に行ったオルドが戻って来ました。


「おかえりなさい」


「お疲れ様です、オルドさん」


 一仕事終えてきたオルドをお出迎えするリリィと咲楽。


「…はぁ、ここは落ち着くな」


 オルドはカウンター席に腰かけ、深いため息を吐きます。かなり疲弊しているようです。


「騒ぎの方はどうだったんだ?」


 そんなオルドに報告を求めるクスタ。


「いつもと変わらない、報告するまでもない些細な小競り合いだった…毎日がその仲裁の繰り返しだ」


 賛成派リーダーとして働くオルドの心労は、終戦に向けて努力してきた咲楽には身に染みて伝わりました。


「…そろそろ夕食の時間ですね。また私が美味しい料理をご馳走しますよ」


 咲楽は料理でも振舞ってオルドを元気づけようとします。


「ああ…すまないな、サクラ。もうここで食うメシだけが楽しみになっている」


「…」


 料理を評価してくれて嬉しく思う反面、早く内乱を解決させてあげたいと切に願う咲楽なのでした。


「ん…そういえば人が増えてるな」


 ここでオルドはアクアベールの存在に気付きます。


「こちらはセコイアからやって来た四獣士のアクアベールさんですよ」


「…」


 リリィがそう紹介すると、オルドは頭を抱えながらしばらく無言になりました。





 その頃、一人の青年が反対派拠点である酒場の扉を開けます。


「ルーザ、一大事だ!」


 慌ててやって来たその青年は、ルーザの命令で同盟賛成派に潜入していた反対派の情報屋です。


「…向こうに動きでもあった?」


 店内にいたルーザが報告を求め、他のメンバーも耳を傾けました。


「あったどころではない。リリィの酒場にハルカナの英雄キユハとセコイアの四獣士アクアベールが集まっていた」


「…!」


「総長、クスタ、ナキまで揃って内乱のことを話し合っていたぞ…これはやばいんじゃないか?」


 情報屋からの報告に、店内は一気にざわめきます。


「なんて面子だ…まさか本気で俺らを滅ぼす気か?」

「セコイアの民にまで内乱がバレたか…」

「いつかはこうなると覚悟していたけど…これは」


 反対派の面々は戦々恐々といった様子です。

 それだけキユハとアクアベールの存在が他国にとって脅威だということです。もはや反対派に一刻の猶予はない、そう思わせるほどの最悪な組み合わせでしょう。


「落ち着きなさい」


 そんな切迫とした店内にルーザの落ち着いた声が響きます。


「クスタが言っていたでしょう、英雄はいつだって中立。賛成派、反対派のどちらとも肩を持たない。そしてセコイアの住人に内乱を知られるのは時間の問題だった、別に慌てるようなことじゃない」


 この状況でもルーザは冷静でした。


(キユハとアクアベールの介入は予想外だけど…二人が加わったところで、クスタとナキが考え方を変えるとは思えない。まだ私たちには猶予がある)


 ルーザは頭の中の情報を整理しつつ向こう側の動きを予測します。英雄たちが何を考えているのか、そしてオルドがどう行動するのか。


「それに反対派を一掃するなんて強行手段をオルドが了承するはずがない」


「なるほど…流石はオルドの相方、相手の考えはお見通しか」


 反対派の一人が冗談めいた言い方をすると、緊迫した空気が少し和らぎます。


「茶化すな…」


 不機嫌そうに腕を組むルーザ。


「とはいえ向こうがあれだけの人材を揃えたんだ、クスタが何か企んでいるに違いない。こちらも妨害策を講じないとね…」


「だが相手は国を揺るがすほどの大物集団だぞ?下手に手を出して奴らを怒らせたら…」


「わかっている」


 ルーザは情報屋から受け取った報告書に目を通します。


「英雄共は言うまでもないが、セコイアの戦士も私たちの手に負える相手ではない。総長やリリィに危害を加えれば、ソエルの民の大半から反感を買うことになる。そして例のサクラとやらには手を出せない」


 迂闊に大物を刺激すれば、反対派の立場はあっという間に悪くなるでしょう。ターゲットにするならば、弱小で立場の低い相手。


「……一人いるわね、ハルカナから来た小娘が」


 ルーザが目を付けたのは、猛獣の中に潜む一匹の兎。集まった中で一番無害な少女でした。


「ああ、アクリと呼ばれる少女だ。話を聞く限りハルカナ王国から来た民間人のようだ」


 情報屋は僅かなアクリの詳細をルーザに伝えます。


「アクリか…姓は分かる?」


「そこまでは調べてないが、どうでもいいだろ」


「…そうね」


 一瞬だけ躊躇いを見せるルーザですが、すぐ気を取り直しました。


「その少女がもし奴らの計画に加担しているのなら、人質として誘拐しておけば十分な妨害になる」


「だがいいのか?子供に手を出すのはルーザの流儀に反するだろう」


「別に危害を加えるつもりはない、事が終わるまで保護するだけでいい。私たち反対派はまだ終わる訳にはいかない」


 こんな状況になっても、ルーザは己の信念を守るため戦う姿勢を崩しません。

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