第153話 【アクアパッツァ】
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~アクアパッツァ~
①大きな鍋にオリーブオイルを引いて、クオウの実をすり込んだ魚を入れ両面をこんがりと焼きます。
②魚に焼き目がついたら、貝、小ぶりのトトマ、オーブルの実の塩漬け、お酒を加え、蓋をして蒸し煮にします。
➂蒸しあがったら塩、クオウの実で味を整えて完成です。
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「これがソエルの食材だけで作った料理、アクアパッツァです!」
昼食にしては豪勢な料理が酒場の席に運ばれます。
見慣れた食材たちで作られた見慣れない料理。異世界人は一瞬戸惑いましたが、口に運ぶことへの抵抗感はありませんでした。
「おお…いつもの魚より旨いぞ!」
口いっぱいに料理を頬張るナキ。
「リリィさんが良い素材を仕入れてくれたので、今回はシンプルな料理にしました」
咲楽もアクアパッツァを口に運びます。
新鮮な魚に、貝類の旨味、トトマの酸味、それらがオリーブオイルと溶け合いシンプルながらも奥深い味わいとなっていました。にんにくの代わりにクオウの実で香りを付けたのが良いアクセントです。
「一緒に入ってるこの実は…オーブル?」
リリィは料理を味わいつつ、使われている食材に注目します。
「はい。偶然にも似たような実が私の故郷にもあったので、調理に応用できました」
「確かに合うね…それに魚も臭みがなくて食べやすい」
「臭み取りにお酒を使いました」
「料理にお酒を…?」
料理の基本は化学。
そう言われるほど地球の料理には長い歴史と工夫があります。地球の食に関する拘りは、異世界人のリリィには新しすぎたようです。
「それとこれ、試作で作ってみました」
咲楽はアクアパッツァとは別に、もう一品だけ料理を作っていました。
「タコの唐揚げです。味見してみてください」
今回の課題であるタコの料理。
オリーブオイルを確保したことで、揚げ物に使う油も上質なものとなります。今ならさらに美味しい天ぷらを作ることも可能でしょう。
「ん…さくさくこりこりで旨いぞ!これ本当にタコか?」
タコを嫌っていたナキですが、唐揚げを口に運ぶ手が止まりません。
咲楽も改めてタコの唐揚げを味わいます。
(やっぱりタコ自体は新鮮でおいしい…となると、下で食べた串焼きは下処理に問題があったんですね)
自分の手でタコを調理した咲楽は確信しました。きちんとした手順で下処理をすれば、タコは柔らかく美味しい物になるのです。
「これまた酒が欲しくなる料理だな…リリィ、一杯」
咲楽の料理を味わう総長は真昼間からお酒を要求します。真面目なリリィは断るかと思いきや…
「こんな料理を出されたら、ワインを飲まずにはいられませんね」
リリィは咲楽が持ってきた数少ないお酒を取り出します。
「そうまでしてお酒を飲みたいんですね、大人の皆さんは」
自分の料理よりも地球から持ち出したお酒の方が好評で、複雑な気分になる咲楽なのでした。
※
咲楽の料理を堪能した一同は、しばらく食後の余韻に浸っていました。
「この料理の名前、あくあぱっつぁー…なんかあいつの名前に似ているな」
満腹のナキがそんなことを呟きます。
「似てますけど、あの人は食べられませんからね」
軽口を挟みながら食器を片付ける咲楽。
「…?」
アクリは誰の話をしているのか疑問に思いつつ、咲楽のお手伝いをします。
「これからは毎日の食事が楽しみになるな」
日本酒を片手に総長はご満悦です。
「問題が片付いたら、あいつにも食わせてやりたい…」
どこか寂し気に虚空を見つめるオルド。
「…そういえばオルドさん、カテンクの入口で騒ぎが起きてましたよ」
そこで咲楽は買い物の時に見かけた小競り合いを思い出します。
「なに?」
「話を聞くところによると、また反対派が揉め事を起こしたそうです」
「そうか…入口には部下を配置させているから大丈夫だと思うが、少し様子を見てくる」
オルドは立ち上がり、表口の鍵を開け急ぎ足で店を出ました。
「戦争が終わっても忙しないですね…オルドさんは」
オルドの背中を心配そうに見送る咲楽。
「あいつは融通が利かない。内乱が解決するまで気を張り詰め続けるだろうな」
クスタは他人事のように語ります。
生真面目なオルドが心を休めるには、内乱を解決させるしかないでしょう。内乱についてはクスタに任せると決めた咲楽ですが、やはり解決策についての詳細を聞かずにはいられません。
「あの、クスタさ…」
咲楽が発言しようとしたその時。
オルドが出て行ってすぐ、入れ替わりで誰かが店の扉が開けました。