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第152話 【オリーブオイル】




 無事鬼の雫へ帰ってくることが出来た咲楽一行。酒場の裏口から広間に入ると、昨日も集まっていた総長、クスタ、オルド、ナキが揃っていました。


「おかえり、サクラ」


 まずリリィが咲楽を迎えてくれます。


「今日も集まって作戦会議ですか」


「ええ…もうすっかりここが内乱対策本部になっちゃった」


 この場に集まった面々を見回して苦笑するリリィ。


「サクラがいるのなら、そこに集まるのは必然だろう」


 総長は当然のように言い切ります。


「とか言って、サクラが持ってきた酒目当てだろ」


「まあ…ここは情報漏洩を避ける場にはもってこいだから構わないが」


 強引に総長から呼び出されたのでしょう、クスタとオルドは仕方なく集まったといった様子です。


「作戦会議でうちを利用するのは構わないんだけど…ルーザが率いる反対派だったら、ここに目星をつけて会話を盗み聞きしてても…」


 リリィが意見を口にしようとしたその時。


「おおーキユハ、久しぶりだな!」


 咲楽の背後にいるキユハの存在に気付いたナキが、リリィの言葉を遮って歓喜の声を上げました。


「…」


 あっさりと変装を見破られた上、大声で名前を呼ばれたことで不機嫌そうに顔を歪めるキユハ。


「英雄…キユハ!?」


「…なるほど、サクラの護衛がアクリさん一人だけなはずないか」


 予想外の来客にオルドとリリィは身構えます。まさかここにハルカナ王国の英雄が現れるとは思わなかったでしょう。


「そういえばキユハが来ていることをお前らに伝えてなかったな」


 クスタは驚く二人を見て呑気なことを言っています。


「英雄が来てたならちゃんと伝えろよ…どうなってんだ、お前の優先度は」


 そんなクスタの判断に呆れるオルド。


「半年ぶりだな~キユハ」


 ナキは騒ぐ周囲を無視してキユハの元に駆け寄りました。


「…そうだっけ」


「また夜になったら、例の()()を撃ち上げてくれ!」


「あんなでっかい爆発音が鳴る魔法、街中じゃ使えないって言ってんだろ」


 久しぶりの再会を喜ぶナキ、面倒くさがるキユハ。そんな二人のやり取りは咲楽を懐かしい気分にさせてくれます。


(話したいことはいっぱいあるけど、今は我慢です…)


 このまま二人の会話に入りたい気持ちを抑えて、咲楽は料理の試作に着手する方を優先しました。


「リリィさん、また厨房をお借りします!」





 まず手を付ける食材は、やはりオーブルの実です。


――――――――――――――――――――

 ~オリーブオイル~


 ①まずオーブルの実をすり鉢に入れて念入りに潰し、潰したオーブルを布で包みギュと絞り水分を出します。


 ➂絞った汁を器に入れ数時間放置すると、汁の中のオイルと果汁が分離されます。そのオイルをスプーンですくい取り、不純物を除けばオリーブオイルの完成です。

――――――――――――――――――――


「うん、これはオリーブで間違いないみたいですね」


 完成したオリーブオイルを見て咲楽は頷きます。


「これで料理油に困ることはなくなりました」


 精霊石という便利な道具があるこの世界は油の生産量が少なく、ハルカナ王国でも確保が困難でした。そしてソエルの油や臭みの強い獣油を使うより、オリーブオイルを使う方が料理の味は格段に良くなります。


(この世界で作ったから…オリーブオイルじゃなくてオーブルオイル?オーブル油?うーん………紛らわしいからオリーブオイルでいいかな)


 そんなことを考えながら咲楽は少量のオリーブオイルを瓶に詰めました。


「ただ…量産するとなると、大変な作業になりそうです」


 オリーブオイルは作れましたが、問題は手間と時間です。潰して絞るだけでも大変ですが、絞った汁から油分がしっかり分離するまで一晩以上は放置する必要があります。


「非効率、原始的…サクラは相変わらずだな」


 そんな咲楽の手際を見ていたキユハは、土と水の精霊石を取り出しました。


“潰せ”


“分れろ”


 魔法によって生み出された土の小型ゴーレムが実から水分を一滴残らず搾り上げ、汁が水の精霊石に触れるとすぐ分離されオリーブオイルだけが摘出されます。

 あっという間にオリーブオイルが生成されました。


「おお…これはいわゆる“調理魔法”ですね」


 魔法の用途は戦闘だけではありません。人々の生活の助けになる便利な魔法はいくらでもあるのです。


(これがキユハさんの魔法…話に聞いた通り、何でもありね)


 キユハの魔法を目の当たりにしたリリィは感服していました。

 どうすれば小型で強大なゴーレムを生み出せるのか、どうやって汁から油分と果汁を分離させたのか、どうしてあんな適当な詠唱で繊細な魔法が発動するのか…多少魔法に心得のあるリリィでも理解不能です。


「…そうだサクラ。今日は特別に美味しい魚を仕入れたから、昼食に使いましょう」


 リリィは厨房の奥にある水槽を指さします。


「立派な魚ですね…」


 水槽の中には鯛のような海水魚が水に浸かっていました。内乱中でも一級品の食材を仕入れることが出来るのは、リリィの酒場だからこそ成せる業です。


「オリーブオイルに魚などの海産物……よし、作る料理を決めました」


 これだけの食材が揃っていれば、咲楽はすぐ料理をイメージすることが出来ます。

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