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第150話 【ソエルで買い物②】




 朝食を済ませた咲楽とアクリは、昇降機を利用して玖階から壱階に降りました。崖下のカテンクは大きく分けて上層が居住区、下層が商店街となっています。

 売られている物はハルカナ王国にはない物ばかりで、まず目につくのは貝殻や魚の骨などで施された精霊石の魔道具です。他にも海岸ならではの面白い道具たちが店に並んでいました。


「…」


 初めてソエルに来たアクリは未知の道具に目移りしています。


「アクリちゃん、はぐれないよう気を付けましょう」


 迷子にならないようアクリと手を繋ぐ咲楽。

 目移りしてしまう気持ちは咲楽も同じですが、寄り道しているときりがありません。目を向けるべきは未知の道具ではなく、新鮮な食材たちです。


「あ、早速お店を発見しましたよ」


 咲楽がまず目を付けたのは、串焼き屋さんの屋台です。

 炭火で焼かれた串焼きは匂いだけならとても美味しそうでした。品揃えは肉、魚、貝…そしてタコもあります。


「すみません、お肉とタコの串焼きを二本ずつください」


「はいよ」


 そう注文すると、焼き立ての串焼きがすぐ出てきました。

 咲楽は受け取った串焼きをアクリに渡します。


「一緒にソエルの料理を味見してみましょう」


「うん…!」


 初めて食べる国外の料理、どんな味がするのか楽しみな様子のアクリ。咲楽は前の旅でソエルの肉料理を味わったことがあるので、その味を再確認する意味で肉に齧り付きます。


 まず感じるのは強烈な塩気。

 そして鼻に抜ける獣臭さ。

 肉は筋張っており、嚙み切るのは困難。

 飲み込んだ後に残る後味の悪さ。


 褒められる要素が一つも見つかりません。


「…」


 アクリはリアクションに困っていました。


「まあ…変わらないですよね。では次が本命です」


 次に咲楽はタコの串焼きに齧り付きます。


 グニ…


「…」


 それはまるで太いゴムです。

 とても咲楽の咬合力では噛みちぎることが出来ません。


“強化魔法(小)”


 咲楽は女神様の魔法で身体能力を二倍にして、何とかタコを噛み切ることに成功しました。


 ぐに…ぐに…


 苦労して口の中に入れても、待っているのは強い生臭さ、ぬめり、塩気…タコの悪い要素がこれでもかと主張してくる一品となっています。


 決して食べ物を粗末にしない咲楽は、意地と気合で肉とタコの串焼きを胃袋に収めました。


「ふぅ…」


 串焼きを完食すると、様々な感情が込められた息を吐く咲楽。


「ハルカナ王国の料理って…十分美味しかったんだね」


 アクリも何とか串焼きを完食しました。

 ハルカナの料理と咲楽の料理を味わったことがあるアクリは、この串焼きでソエルの食文化がどれだけ酷いのかを思い知らされます。


 この串焼きがソエルの食文化の全てではありませんが、これを食べてしまったら他の料理は期待できません。


「…でも、ハードルは低いに越したことはないです」


 咲楽にとってソエルの料理が不味いことは、今回に限っては好都合でした。美味しい料理を生み出すことに成功すれば、ハルカナ王国以上の反響を呼ぶことが期待できます。


「さあ気を取り直して、食材探しに行きましょうか」





 ギルドの街ソエルの食文化は、ハルカナ王国とほとんど変わりません。慣れ親しんだ香辛料であるクオウの実、食用として飼育されている家畜、畑で採れる野菜や山菜などなど…


 ハルカナにはないソエルの大きな点、それは海の幸です。


(主食となるのは魚と貝らしいけど…)


 しばらく商店街を徘徊した咲楽は、難しい表情を浮かべます。


「うーん…リリィさんの言う通りでしたね」


 主食となる魚や貝は見るからに品薄状態、そしてタコならどこの店でも余らせていました。これが内乱による大きな影響の一つです。


(品薄食材を流行らせても効果は薄いし…やっぱりタコと戦うことになりそう)


 今回の課題となるのは、タコを使った美味しい料理をソエルの食材だけで完結させることです。地球の食材に頼っていてはプレザントの食文化は一歩も進展しません。


(わかってたけど、調味料とかはないですね…)


 醤油、ソース、コンソメ…そういった調味料があれば話は早いのですが、そんなものは異世界にはありません。


「やっぱり調味料を作るところから始めるしかないですね」


 咲楽は視点を切り替え、旨味のありそうな素材を探すことにします。


 果物、野菜、魚介類。

 プレザント人はまだ、そういった食材に隠された旨味を利用する調理法を編み出していません。そこに美味しい料理を生み出す要が隠されているのです。


(…この実は何だろう)


 咲楽は八百屋で見覚えのない木の実の山を発見して足を止めます。


「すみません、この実はなんですか?」


「オーブルっていう、巨木のリンガクで発見された木の実だ。風味が独特で人を選ぶが、塩漬けにすると酒のあてになるぞ」


 店員さんが瓶詰めにされたオーブルの実を取り出し、蓋を開けてくれました。


(この香り…もしかして、オリーブ?)


 その実は香りも形も、地球にあるオリーブの実そっくりでした。


(もしこれがオリーブなら、海産物との相性抜群です。オリーブオイルとかも作れるかな…これだけで料理の幅が一気に広がる)


 咲楽にとってこの実は予想外の大収穫です。


「すみません、その実を沢山ください!」


「物好きな嬢ちゃんだな…」


 売れ残る食料を大量に買い込む咲楽を、店員さんは奇異な目で見ます。

 タコやオリーブはプレザント人にとって不人気な()()()ですが、咲楽にとっては頼もしい()()となるのです。他にも軽視された食材が隠されていることを信じて、咲楽は食材探しを続けるのでした。





「うーむ…」


 商店街を大方見終わった咲楽は唸ります。


(面白い発見はありましたが、これだけじゃまだ足りない…)


 オリーブの他にもいくつかの食材を手に入れた咲楽ですが、それらの素材だけでは美味しい料理をイメージすることが出来ません。

 しばらく悩んだ咲楽は決心しました。


「…アクリちゃん、明日にでも私一人でハルカナに行ってきます。すぐ帰ってくるので、その間だけお留守番をお願いします」


「え、ハルカナ王国に?」


「ハルカナ王国というより、隣の孤児院に用がありまして」


 咲楽は料理について孤児院長のハトに相談するつもりです。ハトには様々な地球の調味料を託しているので、何か新しい発見があったかもしれません。


「でも、どうやってハルカナ王国まで戻るの?」


 アクリは移動手段について尋ねました。


「グリフォンにお願いして、空を飛んで向かいます」


 魔物と仲良くなった咲楽には“そらをとぶ”という移動手段があります。グリフォンの飛行速度なら遠い孤児院でもひとっ飛びでしょう。


 移動拠点にはグランタートル。

 空の移動にはグリフォン。


 快適な乗り物がないこの世界において、魔物の力はとても頼りになるものです。

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