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第145話 【ナポリタン】




 お先真っ暗なソエルについて話し合う咲楽たち。


「邪魔するぞ」


 そんな重たい空気の店内に呑気な声が飛び込んできます。


「あ、クスタさん」


 同盟反対派へ警告しに行っていた、ギルドの街ソエルの英雄クスタが登場です。咲楽はようやくソエルでクスタと再会することが出来ました。


「リリィ、一杯もらおう」


「はいはい」


 クスタはお酒を注文しながらカウンター席に座り、リリィは綺麗なグラスを用意して咲楽のお土産であるワインを注ぎクスタの前に置きます。


「おいクスタ、奴らに警告はしたんだろうな?」


 開口一番にクスタの報告を求めるナキ。


「ああ…あれだけ警告すればサクラには手を出さないだろう」


 クスタはまず咲楽の身の安全を保障します。


「それで…どうでした?内乱は解決しそうですか?」


 現在起きている内乱に解決の希望があるのかどうか、咲楽は恐る恐るクスタの意見を求めました。


「解決までの道のりは見えている」


 するとクスタから予想外の答えが帰ってきます。


「…え?」

「え?」

「…」


 思わぬ返答に拍子抜けした声を漏らす咲楽とアクリ。

 リリィは特に驚いていません。


「その後の反対派の動きは容易に予想できる。計画通りにいけば、サクラのお望み通りの形で内乱を収められそうだ」


「本当ですか!?」


「サクラが余計なトラブルを起こさなければ……な」


 そう警告しながらクスタはワインを口に含みます。

 過去の旅でも咲楽の奇行によりクスタは何度も頭を悩ませてきました。また咲楽が予想外のトラブルを起こせば、用意した計画があっという間に破綻するかもしれません。


「う…」


 咲楽は身を縮めて大人しくする意志を表します。


「…なんだこのワイン、やけに旨いな」


 何気なく口に含んだワインの味に驚くクスタ。


「サクラの手土産だよ」


 何故かリリィは得意げな表情です。


「へぇ…前に貰ったサンドイッチといい、サクラの世界には美味い物がたくさんあるな」


 クスタはハルカナ王国を出る前に、咲楽からお弁当のサンドイッチを受け取っています。それを食べてから地球の料理に仄かな好奇心が芽生えていました。


「おーい、お邪魔するぞ」


 その時、また酒場の扉が開きます。

 先程まで面会していたギルド総長とオルドが揃って来店してきました。


「クスタも揃っているな。こうしてこの面子で集まれるとは…考え深いものがある」


 入店した総長はこの場に集まる面々を見回してしみじみと呟きます。


「さぁリリィ、再会を祝してサクラの世界の酒を出してくれ」


「そう来るとは思っていましたが…総長、さっき一本飲み切ったばかりでしょう」


 総長の要求に呆れるリリィ。

 咲楽が持ってきたお酒は日本酒とワインの予備を合わせて六本。一本は総長が飲み干しており、今はワインを開封しているので残りは四本。このペースではあっという間になくなってしまうでしょう。


 リリィはワインをグラスに注ぎ総長に差し出します。


「お酒は私が管理します。勝手に飲んだら駄目ですよ」


「むぅ…仕方ないな」


 渋々といった様子でワインを受け取る総長。


「クスタ…反対派の話し合いはどうだった?」


 お酒目的の総長とは違い、真面目なオルドは内乱についての進捗をクスタに確認します。


「何も変わらない…あの調子じゃいくら説得しても無駄だ。ルーザは責任感が強いからな、余程の理由がなければ引き下がることはないだろう」


 クスタは呆れながら答え、オルドは肩を落としました。


「そうか…」


「だから今、余程の理由を用意している」


「理由を…用意する?どういうことだ?」


「今は話せない。情報の漏洩は避けたいからな」


「…」


 クスタの思惑が分からず難しい顔をするオルド。


「それより腹が減ったぞー…サクラ、久しぶりになんか作ってくれ」


 するとナキはお腹を鳴らしながら咲楽の服を引っ張ります。


「了解です。アクリちゃん、手伝ってくれます?」


「うん!」


「リリィさん、厨房をお借りしていいですか?」


「どうぞ。食材は好きに使っていいから」


 リリィから許可を貰い、咲楽はアクリと共に酒場の厨房に向かいました。


「気分が沈んだ時は美味しい料理を食べるに限ります。まずは皆さんに、私の世界の料理がどれだけ美味しいか知ってもらいますよ」





――――――――――――――――――――

 ~ナポリタン~


 ①地球の食材は市販のパスタ、ケチャップのみです。プレザントにはトマトの代わりになるトトマ、タマネギの代わりになるマルネギなど代用可能の野菜が揃っています。


 ②ソースはケチャップ、トトマをペーストしたもの、拠点で作ったブイヨン、クオウの実を混ぜ合わせて塩で味を整えれば完成です。


 ③まず切り分けた野菜やソーセージを油で炒め、茹でたパスタを入れてさらに炒めます。火が通ったら作っておいたソースを混ぜ合わせてソースが温まれば完成です。

――――――――――――――――――――


「これが地球の料理、スパゲティです。フォークでくるくる回して食べてください」


 パスタが存在しない異世界人に食べ方を教える咲楽。

 初めてパスタを前にした異世界人の面々は、ぎこちない手つきでパスタを巻き取り口に運びました。


「うまい!」


「ほお…これはワインが進むな」


 ナキは大喜びでパスタを頬張り、クスタはワインと共に舌鼓を打ちます。トトマのもつ強い酸味はワインとの相性も抜群。子供から大人まで愛される料理、それがナポリタンです。


「以前、サクラからソエルの食文化を非難されたが…これは非難されて当然だな。酒も料理もうちのとじゃ比べ物にならん」


 総長も地球の味に驚かされる一方でした。


「私の言った通りだったでしょう」


 咲楽が胸を張って地球の料理を自慢します。


「おかわり」

「おかわり」

「おかわり」


 そんな咲楽を無視しておかわりを要求する三人。


「はい…」


 咲楽はすぐおかわりを用意します。


「オルドさんも、料理はお口に合いました?」


「あ、ああ…」


「なら良かったです!」


 咲楽に笑顔を向けられ、やりづらそうに頬を掻くオルド。


(不思議な少女だ。あの癖が強い英雄と親し気に…それに初対面の俺ですら、つい心を許してしまいそうな…)


 オルドは咲楽が生み出す和やかな空気に呑まれそうになっていました。


「少しは気を休めたら?」


 そこでリリィがお酒を差し出しながら、ここに来てもずっと気を張っているオルドを労います。


「リリィ…」


「戦争が終わってもすぐ内乱だったからね…でも今、この場所だけは平和よ。今宵は骨を休めましょう」


「……そうだな」


 内乱のことを考えずっと険しい表情をしていたオルドは、頬を緩めて地球の美食を堪能するのでした。

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