第140話 【同盟賛成派】
まずオルドは総長に酒を差し出します。
「どうぞ総長、いつものやつだ」
総長と対面する時はお酒を持参する、それがソエルの常識です。
「ふむ…これで我慢するか」
そう愚痴りながらも総長はお酒を受け取りました。
普段なら喜んで受け取るお気に入りのお酒なのですが、咲楽から貰った日本酒を飲んだ後では味気なく感じてしまうでしょう。
「それで、ルーザたちの様子はどうだった」
お酒を盃に注ぎながら本題に入る総長。
同盟賛成派のリーダーであるオルドが同盟反対派とどのような交渉をしてきたのか、咲楽も真剣に聞き耳を立てました。
「和解案は全て却下された。向こうはもう引く気はないようだ」
オルドの思い詰めた表情で報告を続けます。
「カルカクの連中は四拠点に通じる道に塀を作ろうとしている。本気で海岸のカルカクを独立させる気だ」
「そうか…そこまで大々的にやられたら、各国に内乱を隠し通すのも限界だな」
「下手をすれば四ヵ国の同盟に亀裂を入れかねない…同盟反対派の思惑通りということだ」
「オルドの説得が駄目となると、私が出向いても無駄だろうな…どう動いたものか」
総長は立場上、どちらの味方にもなれません。それでもソエルの行く末や未来を見据えるなら、賛成派に肩を持つのは当然でしょう。
「俺ら同盟賛成派で反対派を抑制しているが、それもただの時間稼ぎにしかならない。何とか奴らの…ルーザを止める手段を考えねば」
「うむ…」
内乱の現状になす術のないオルドと総長。
このまま内乱の事態が大きくなれば、ギルドの街ソエルの営みが崩壊してしまうでしょう。
「…」
咲楽は二人の会話を聞きながら、これから自分のすべきことを考えました。
ギルドの街ソエルはハルカナ王国よりも大きな事情を抱えています。この問題を考慮しながら国おこしの計画を立てなければなりません。
「…サクラ、首を突っ込むなと言っただろ」
考え込む咲楽を見て釘をさす総長。
「まだ何も言ってないですよ」
「どうにかしてやると顔に書いてあるぞ」
「…」
すると咲楽は開き直ったように笑います。
「今回の旅は好き勝手に楽しむことが目的なので、好きにさせてもらいますよ~」
「むう…」
咲楽の言い分に総長は言い返せません。
何故ならここは“なんでもあり”がモットーのギルドの街ソエル。人の意思を否定するなど、ソエルの総長が出来るはずがありません。
※
「そろそろおいとましますね」
総長との挨拶と話し合いが一段落したので、咲楽は拠点に戻ることにします。
「しばらく鬼の雫で御厄介になるので、何かあったら呼んでください」
「いや、もう私からサクラに頼ることはないぞ」
咲楽の協力を頑なに拒む総長。
「…酒場には日本酒の予備がありますよ」
「なに…?」
「それと実はもう一種類、日本酒とは別のお酒も用意したんですけどね~」
「…」
それは日本酒の味が忘れられない総長には堪えられない誘惑でしょう。
「そうだ総長さん、あれから憎食みが現れたりしてます?」
そこで咲楽は思い出したかのように質問します。もちろん忘れていた訳ではなく、咲楽は意図的に憎食みの話題をついでのように話したのです。
「いや?現れてはいないが…内乱中の現状、何時現れるか冷や汗ものだ」
「そうですよね」
総長が隠し事をしている様子もないので、本当に憎食みは目撃されていないのでしょう。
(ソエルは大きな問題に直面してるのに、新種の憎食みは現れていない……じゃあなんで問題の小さかったハルカナで憎食みが現れたんだろう。それとも目撃されてないだけで隠れてるだけとか…?観光を装いつつ、念入りに付近の調査をする必要がありますね)
新種の憎食みについては極秘中の極秘、慎重に調査しなければなりません。
「それではお邪魔しました。行きましょうアクリちゃん」
「う、うん」
咲楽とアクリはお辞儀をして立ち去ろうとします。
「私もついて行くぞー!」
ナキも二人の後に続き、女子三人組は謁見の間を後にしました。
「…」
そんな咲楽の後ろ姿を見送るオルドはこう思うのでした。
(あのサクラという少女…雰囲気や言動といい、あの人に似ていたな…)