第139話 【ソエルの総長④】
ソエルの現状について話し合っていると、謁見の間に訪問者がやって来ます。
「総長、少しよろしいか」
その男性は額の傷が特徴的の、鋭い目つきをした男性でした。
「あ、オルドさん!」
咲楽はその男性と面識がありました。
今起きている内乱の当事者であり、賛成派のリーダーであり、この“崖下のカテンク”の代表でもあるオルドです。
「ん…誰だこの小娘?」
オルドは見覚えのない咲楽を見て不審に思います。
咲楽とオルドに面識があったのは前の旅でのこと、つまり記憶封印を解除していないオルドは咲楽のことを思い出してはいません。
「いや…お前は覚えてろよ、オルド」
咲楽のことを綺麗さっぱり忘れているオルドを見て総長はご立腹です。
「お前サクラに散々世話になっただろ」
「俺が?この小娘と?」
「そうだよ」
「………やはり俺の記憶にはないな」
オルドは咲楽の顔を確認しますが、思い出すことは出来ません。
(…オルドさんもテオさんと一緒で、記憶封印解除の候補として保留にしてたんですよね。どうしよう…思い出させた方がよかったかな)
女神様にお願いすれば、すぐにでもオルドの記憶封印を解除することが可能です。ですが無計画に封印を解除すれば女神様の信仰に悪影響を及ぼしてしまうので、咲楽はどうすべきか悩みました。
「たく…ソエルの人間が恩を忘れるとは、嘆かわしい」
空になった日本酒の酒瓶を覗きながら苛立ちを見せる総長。
「それで、この娘は誰なんだ?」
「はぁ…」
総長は深いため息を吐きながら、オルドに咲楽を紹介します。
「こいつはサクラ、私の娘だ」
総長の発言に一番驚いているのは咲楽でしょう。
アクリとナキも少し驚いていますが、黙って成り行きを見守っていました。
「な…本当か!?」
オルドも衝撃を受けつつ事実確認をします。
「おう、お前は私とリオウの繋がりを知っているだろ。ちょっと会った時にできてな」
「ということは…ハルカナ国王とソエル総長の間で生まれた子…!?」
総長がとんでもない嘘を炸裂させました。
「総長さん!?どういうつもりですか…!?」
咲楽は総長の元に駆け寄り、小声で総長を問い詰めます。
「サクラは今回、英雄の身分を隠したいのだろう?だったらリオウと同じ手を使ってもいいだろ」
平然と答える総長。
「よくないですよ!それにナキちゃんの家来って肩書だけで十分ですし」
「それだと怖がられるだけだろ。サクラが私の娘だとソエルの住人に伝えれば、サクラを思い出さなくても厚遇してくれる」
「いや…そうかもですが、もしバレたりしたら…」
「別に今までと変わらんだろう、私とリオウの繋がりは今でも極秘事項だ」
総長の策は国王とまったく同じです。
ハルカナ王国でも咲楽を国王の娘にすることで、騎士隊長が協力的になり何度も場を切り抜けてきました。総長もソエルで同じようにすれば、咲楽が快適にソエルで活動できると踏んだのです。
それに国王と違って総長は独身、咲楽を娘と吹聴しても問題ありません。ですが国王の間で出来たと広まれば大問題になるでしょう。
「私のことを母と呼んでもいいのだぞ」
「………」
大きなリスクをかかえることになった総長ですが、とても楽しそうです。総長も国王と同じで、咲楽に恩を返すためなら自己犠牲も厭わないのでしょう。
「ハルカナ国王とソエル総長の子供……内乱中だというのに、とんでもない爆弾をぶっこむな…」
咲楽の存在は、内乱で忙しくしているオルドにはとても処理しきれません。
「それよりオルド、用があって来たんじゃないのか?」
「え?あ、ああ…そうだった」
総長に言われオルドはここに訪ねてきた目的を思い出します。
「今日、反対派の連中と話してきた」