第138話 【ソエルの総長➂】
「…そういえばクスタさん、こっちにもいないんですか?」
咲楽はこの場にクスタがいないこと気付き総長に尋ねます。ソエルに到着してから、まだ咲楽はクスタとは一度も会っていません。
「クスタならこっちに顔を出してから、カルカクに行くと言ってすぐ出て行ってしまった。恐らく警告しに行ったのだろう」
「警告?」
「今のソエルは内輪もめ中だ。そんな中、サクラに万が一があっては許されないからな」
「…」
咲楽はしばらく悩みます。
まだ咲楽は内乱が起きたことの発端を知りません。それをこの場で聞いておきたいと思ったのです。
「その件について、詳しく聞いてもいいですか?」
「…話さない訳にはいかないから話すが、首を突っ込むなよ?」
総長としてはもう咲楽に自国の問題と関わって欲しくはありませんが、しばらくソエルに滞在する咲楽には話すしかないでしょう。
「ルーザのことは覚えているか?」
「ルーザさんですか?もちろん覚えてますよ」
「そのルーザが、反対派のリーダーなんだ」
「…ええ!?」
総長の言葉に咲楽は驚きました。
「そんな…オルドさんは何も言わないんですか?」
「言ってるよ。ていうかオルドが賛成派のリーダーだ」
「ええ!?」
更に驚く咲楽。
「あの仲が良かった二人が対立…なんだか想像できないですね」
咲楽は一人でブツブツと呟きながら思い悩んでいます。
「…?」
当然ですがアクリは話についてこれていません。ただ茫然とそのやりとりを眺めていました。
「あ、ごめんなさいアクリちゃん。詳しく説明しますね」
咲楽は戸惑うアクリに気付き、かつて戦争を止めるために協力してくれたルーザとオルドとの思い出を語ります。
※
戦時中のギルドの街ソエルは大半が過激派で、憎き帝都フリムに復讐するため死を覚悟して戦場に立って戦士ばかりでした。そんな戦士たちをまとめていたのがルーザとオルドです。
クスタが影で戦争を操るならば、ルーザとオルドが表舞台の先導者でした。
二人はフリムに滅ぼされた村の生き残りで、路頭に迷っていたところをソエルの住人に助けられました。当時の二人はフリムへの憎しみに囚われていましたが、助けてくれた恩人に諭され憎しみの呪縛から解放されたのです。
恨みを晴らすよりも生き残った命を救うこと。
それが二人の戦場に立つ理由となりました。
それからルーザとオルドは頭角を現し、クスタや総長と共に終戦の道を探るようになります。
総長は咲楽の存在をずっと軽視していましたが、ルーザとオルドは咲楽が持つ未知の力に注目し積極的に力を貸してくれました。咲楽は二人と協力して、ソエルに纏う憎しみを和らげることにも成功しています。
※
「ルーザさんとオルドさんはとても仲良しで、お互いを信頼し合っていました。なのに…まさか対立して争ってるなんて想像できないんです」
話を聞いたアクリは咲楽が驚く理由に納得しました。
咲楽にとってルーザとオルドは戦友であり、英雄と呼ばれても不思議ではない戦果を残した大人物なのです。
「なんでそんなことになっちゃったんですか?」
咲楽は改めて総長に事情を聞きます。
「ことの発端はルーザだった…あいつは故郷を失い、自分を諭してくれた恩人を失い、それでもずっと我慢して戦ってきた。戦争が終わり我慢の糸が切れたのだろう、まるで人が変わったかのように反対派を結成し始めた」
「でもずっと終戦を望んでたんですよ?なのに同盟を反対するなんて…」
「終戦は望んでいたが和解は望んでいない、ルーザはずっとそうだった」
ルーザの人生を見てきた総長は、こうなることを予想していたのでしょう。それだけルーザが戦争で受けた傷が深かったのです。
「人には誰にだって譲れない線がある。ギルドの街ソエルは法を超えて自分の信念を守るための街だ。だから私らはルーザを止めることが出来なかった。むしろルーザの意思に賛同する者まで出てくる始末だ」
ルーザを中心に生まれた集団、それが反対派の成り立ちです。
そしてこれが、ギルドの街ソエルが抱える問題です。
「私はルーザを含む反対派を南のカルカクに追いやったが、根本的な解決には程遠い状況だ。流石に私もお手上げでな」
話ながら総長のお酒と煙管の手が進みます。
お酒を飲まなければやってられないのでしょう。
「………」
ソエルの今後について考え直す咲楽。
(…やっぱり簡単に国おこしはさせてくれないですね)
課題は山積みですが、咲楽はやる気に燃えていました。