第137話 【ソエルの総長②】
咲楽とアクリの挨拶が済んだところで、話題は今回の出来事に変わります。総長、ナキ、咲楽には募る話しが山のようにあるので、順序よく話を進めることにしました。
何よりもまず咲楽は、急に起きた歴史改変について説明しなければなりません。
もちろん記憶封印が信仰の都合上仕方なく行われたとは言いません、咲楽が異世界を行き来したことによって起きた自然の事象ということにします。
「聞けば聞くほど現実味のない話だな」
話を聞いても総長には女神様が起こす奇跡を理解する知識は持ち合わせてはいません。だからこそ咲楽の嘘を看破することが出来ないのです。
「それで、今回は遊ぶためにこっちに来たと」
「そうです」
総長の言うことに頷く咲楽。
憎食みの気配がしたから国おこしに来た…とは間違っても言いません。他にも咲楽には話せない秘密がたくさんあるので、口を滑らせないよう慎重に言葉を選んでいます。
「…他に話してないことはないのか?」
すると総長は疑り深い目で咲楽を睨みました。
「ないですよ」
咲楽は平然と答えます。
「本当かぁ?クスタが言うには、今回のサクラには隠し事が盛り沢山らしいぞ」
「誰にだって隠し事はあると思いますよ」
「それもそうだが…むぅ」
もどかしそうに唸る総長。
どうやら総長はこのような取り調べが苦手のようです。
咲楽にとって今回の天敵はクスタでしょう。
クスタの巧みな話術に惑わされないよう、咲楽は真実をはぐらかす覚悟を決めています。総長程度の揺さぶりには動じません。
「まあサクラが隠したいんなら好きにすればいいが、何かあったら言えよ」
「はい!」
迷いなく返事をする咲楽。
国おこし計画には総長やリリィの力が必要不可欠、今回も大いに頼らせてもらう予定です。
※
「それで、リオウは元気だったか?」
咲楽の事情を話し終えたところで、次に総長はハルカナ王国の様子を咲楽に聞きます。
因みにリオウとはハルカナ王国国王の名前です。
「王様は元気でしたよ。なにせ…」
それから咲楽はハルカナ王国での出来事を話しました。
かつての仲間たちと再会したこと。みんなに料理を振舞ったこと。地球にある娯楽文化でハルカナ王国の国おこしを行ったこと。咲楽を守る組織“華護庭”が結成されたこと。そして、英雄の身分を隠すため咲楽を国王の娘にしたことなど。
「サクラがあいつの娘!?あはははは!」
話を聞いた総長はお腹を抱えて大笑いしました。
「あいつは最初から最後までサクラのことを気に入っていたからな…にしてもサクラを娘にしたいとか、願望が見え見えだな」
国王と長い付き合いの総長には、国王の考えることはお見通しです。
咲楽を自分の娘に設定した動機も、咲楽の身を守るためだけではありません。サクラの英雄譚に深く関わること、そして親のように自分を頼って欲しいという二つの願望が潜んでいました。
「それにサクラを守る組織“華護庭”か…面白いことを考えたな。私もその組織に所属していいのか?」
総長から予想外の提案が飛んできます。
「その組織の構成員はアクリが集めているのだろう?」
「は、はい」
アクリは慌てて返事をし、国王から授かった会員証を取り出しました。
「サクラお姉ちゃんが信頼できる人を誘うようにと言われています」
「なら私も参加できるだろう」
「そ、そうですね…ではどうぞ」
恐る恐る会員証を総長に渡すアクリ。
「………ふ、どうやらリオウは私が加入することを読んでいたようだな。サクラに酒の強要は禁止とか書かれているぞ」
会員証に書かれた文章を見て総長が嘲笑します。どうやら国王も総長の考えることはお見通しのようです。
「その、ナキ様も入ります?」
アクリは隣にいるナキにも勧誘を試みます。
「様は付けなくてよい、その呼び方は嫌いなんだ」
「で、ではナキさんは華護庭に入りますか?」
「うーん…私は入らん」
ナキはお饅頭を咀嚼しながら一瞬だけ悩みましたが、すぐ拒否しました。
「私はサクラの主だ。家来の下にある組織になど入れぬ」
ナキは家来を家族のように思っていますが、上下関係はそれなりに意識しているようです。
「え、その組織って私よりも下なんですか?」
華護庭について詳しく知らない咲楽が声を上げます。
「そりゃそうだろう。言うなら私らはサクラの手下、サクラ姫を守る護衛組織なんだぞ」
当然のように答える総長。
「私が王様や総長さんより上って…」
自分の立場を知り、咲楽は冷や汗を流します。
「それにしても…ふむ、あいつがサクラの父か」
総長は会員証を見て何やら考え込んでいました。
国王と同じか、それ以上に咲楽へ恩義を感じている総長。咲楽がソエルを快適に歩けるよう、自分も出来ることがないか模索しているようです。