第128話 【ソエルの内乱】
「内乱…おだやかじゃないですね。詳細をお願いします」
咲楽は動揺しつつ、クスタに話を続けさせます。
「今のソエルは、同盟賛成派と同盟反対派で大きく分かれている」
「同盟…」
「憎断ち戦争を最後に、四つの勢力が和平を結んだことは知ってるな?」
「はい。ソエルにもハルカナやフリムの人が復興の手伝に来てるんですよね」
四大勢力は“憎断ち戦争”を最後に終戦し平和条約が結ばれました。それから物資などを支援し合い、復興のため手を取り合うことを約束しました。また憎食みが現れないよう関係を修繕しつつ順調に復興しているはずです。
「だがサクラは覚えているな?ソエルの民の多くは、帝都フリムに滅ぼされた街の生き残りだと」
「…」
ソエルの人口は約50万人、その住人は大きく分けて二種類。
ハルカナ王国や他の国から移住してきた者。そして、帝都フリムに故郷を奪われ生き残った者たちがほとんどでした。
「要するにうちの奴らは各国に強い私怨を持っている。憎食みの存在を知り終戦に異論はないようだが、仲良く同盟を結ぶ義理なんかないと言う奴が多い」
「う……なるほど」
終戦しても遺恨は残ります。
ハルカナでは目立つ争いを起こす住民は少なく、咲楽の目には平和に見えていました。ですがソエルでは、人々の争いがより顕著な問題として騒がれているようです。
「反対派はハルカナやフリムから支援に来る者たちや、同盟賛成派の者を露骨に煙たがっている。そいつらが海沿いの街カルカクを占拠し、物資を独占しているんだ」
「カルカク?」
会話の中で聞き慣れない単語が気になるアクリ。
「…ソエルは崖を隔てて四つに分かれている」
その疑問に答えるため、クスタは設置されたボードに地図を貼りました。
北の双璧に挟まれた“崖下のカテンク”
西の洞窟に潜める“洞穴のウリク”
南の海沿いで橋を立てる“海岸のカルカク”
東の森林に囲まれた“巨木のリンガク”
「このようにソエルは四つの地区に分けられ、それぞれの長所を生かして国を発展させている。ウリクでは鉱物や精霊石が発掘され、リンガクでは木材や自然の恵みなどが採取される」
指示棒を使い丁寧に解説してくれるクスタ。
「形は違うけど、ハルカナに似てますね」
アクリは気付きます。
ソエルの作りは産業区、居住区、士官区と区分けされているハルカナの作りに似ていました。
「ご明察だ。もっとも、ハルカナほど丁寧には作られていないがな」
ソエルが四大勢力に数えられるようになったのは、初代総長が独立して三十年程度。短い期間でこれだけ発展したのは、初代総長がハルカナ王国の作りを深く理解していたからです。
そうして生まれたギルドの街ソエルがハルカナ王国に似るのは必然でしょう。
「だが今回は各地区で役割を決めた作りが裏目に出ている。反対派は海沿いにある南のカルカクを占領し、海産物などの物資を独占している」
「そんな…海産物がソエルの名物なのに」
名物とは咲楽が勝手に決めているだけなのですが、ソエルは海沿いに面しているので海の幸が豊富な国となっています。
「四大勢力の争いが終わったと思ったら、今度はソエルの四拠点でトラブルですか」
「まったくみっともない話だ…他国にバレたら国際問題にまで発展してしまう」
争いの絶えないソエルに困り果てる咲楽とクスタ。
こんな状況が国王やテオールに知られていたら、余計な不信感を抱かせていたでしょう。憎食みを予防するには、不測の事態を隠すことも必要です。
「それじゃあカルカクの方をのんびり観光は出来そうにないですね」
ソエルにある四つの拠点を回るつもりだった咲楽は落ち込みます。
「物怖じしないな、サクラは」
これまでの話を聞いても入国に迷いがない咲楽に飽きれるクスタ。内乱状態と聞けば、入国を迷ってもおかしくはありません。
「…」
咲楽と違ってアクリはしっかり悩んでいました。
「アクリちゃんはお留守番してます?」
「ううん…行きたい!」
それでもアクリの意思は変わらず。
ここまで来て弱腰になるほどアクリの覚悟は生半可ではありません。
「僕はまだ行かないぞ」
ですがキユハはあっさり入国拒否。
「研究がいいところなんだ、しばらくここで留守番する」
「ええ~…」
咲楽は呆れた様子で唸ります。
キユハの優先順位は、仲間との再会よりも研究の方が上のようです。
「キユハは相変わらずだな、分かりやすくて扱いやすい。それに引き換えサクラは予想外の問題ばかりを持ち込んで…」
話すことを話し終えたクスタは指揮棒をしまいました。
「まだ何も起こしてないじゃないですかー」
トラブルメーカー扱いされて抗議する咲楽。
「サクラ。忠告するが、想定外の行動は控えろよ。俺が許容できるよう…最低でも三回に抑えろ」
「だ、大丈夫ですよ」
「どうだか…先が思いやられる」
そう言ってクスタはアクリを一瞥し、うんざりした笑みを浮かべるのでした。