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第126話 【ソエルの歩き方】




 咲楽たちが移動拠点グラタンに乗り、ハルカナ王国を出発して八日目の朝。

 気候は少し変わり、時折強い風が吹くようになりました。この風はソエルのある南の地域特有の現象で、風の精霊シルフが管理する影響もあって強風が吹き荒れています。


「………以上が、ソエル誕生の秘話です」


 咲楽は外の集会スペースで、ギルドの街ソエルの歴史についてアクリに教授していました。


「まさか各国の長に繋がりがあったなんて…」


 咲楽の話を聞いて驚くアクリ。

 アクリがハルカナ王国で学んできた歴史と、咲楽が話す歴史には食い違いがあります。


「ソエルとハルカナは本来、戦争中でも同盟関係にあったのです。このことは未だに公になっていないらしいのですが」


 現国王と二代目総長の繋がり、それを知る者はハルカナ王国内でも数えるほどしかいません。


「アクリちゃんはハルカナ王国でギルドに通ってましたよね」


「うん」


「ソエルのギルドとハルカナのギルドはまったくの別物です。ハルカナのギルドはソエルの独立に反対した人たちが中心になって再構築したものです。ギルドは士官学校と契約を結んで、物資調達、護衛依頼、居住区の問題解決などに取り組む何でも屋のような組織になりました」


 プレザントにあるギルドという概念はかなり特殊なものです。ハルカナ王国にとってのギルドは、人々が助け合い戦争を生き残るための組織となっています。


「じゃあギルドの街ソエルはどんな街なの?」


 アクリが手を上げて質問しました。


「えっとですね…元ハルカナ国民が中心になって発展したので、細かい文化や街の作りはハルカナに近いです」


「初代総長がハルカナ育ちだものね」


「それと前にテオさんが言ってたのですが、ハルカナに比べて治安は良くないです」


「え?」


「ソエルには“盟約”があって、それが法律になってるのですが…その盟約が大雑把というかなんというか…」


 急に歯切れが悪くなる咲楽。


「単純、明解。ソエルに住む奴らは、ハルカナのお堅い法律を面倒に感じた曲者の集まりなんだ」


 読書をしていたキユハが会話に割って入りました。


「その日暮らしの遊び人、詐欺や窃盗に手を染める犯罪者、違法な煙を吸う快楽主義者…どいつもこいつも野蛮だぞ。僕らみたいな小娘が街を歩いてたら、誘拐されて身ぐるみ剥が…」


 そのまま言葉を続けようとするキユハの口を、咲楽が手で塞ぎます。


「…」


 しかし要点をしっかり聞いていたアクリは引いていました。


「悪い人ばかりじゃないですよ!仲間想いの優しい人は沢山いますし、みんな懐が広いといいますか」


 咲楽が慌ててソエルの良いところを上げます。


「懐ね………最初はサクラなんて“無能な神の子”と罵倒され石礫を投げつけられ…」


 口を塞いでも酷評を止めないキユハ。

 咲楽はキユハの口と鼻をしっかりと塞ぎました。


「………本当に入国して大丈夫なの?」


 これまでの話を聞いたアクリはすっかり警戒モードです。


「本当に大丈夫ですよ!それにこの証を身につけていれば安全は保障できます」


 不安がるアクリに、咲楽は巻いているマフラーについた証をアクリに見せます。


「それは?」


「ナキちゃんの家来の証です」


「ナキ…さま」


 ナキとは咲楽と共に世界を救った、八人の英雄の名前です。


「集まった八人の中でもっとも強く、たった一人で数千もの憎食みを叩き潰した豪傑。ついた二つ名が“最強の槌”」


 アクリは歴史に伝わるナキの詳細を確認します。

 人間、魔物、多種族と様々な生物が存在するプレザントですが、ナキを超える身体能力を持った生物は存在しません。だからこそ八人の英雄の中で唯一“最強”の称号を与えられたのです。


「ナキちゃんの家来であることは、ソエルではとても名誉なことなのです。これさえ身につけていれば悪い人に絡まれることはないですよ」


 咲楽はナキが認めた家来の一人。

 その家来に手を出せば、最強の英雄を敵に回すことを意味します。そんな無謀なことをする者はソエルにはいません。


「…」


 しかしアクリは不思議に思いました。


(ナキ様とサクラお姉ちゃんの関係って、家来なんだ…)


 仲間ではなく、戦友でもなく、恩人でもなく、ただの家来。対等な立場ではなく上下関係であることが不可解でならないのです。


「…もう一人の英雄さんは?」


 ナキへの疑問は保留にし、アクリはソエルにいるもう一人の英雄について尋ねます。


「クスタさんです。アクリちゃんもハルカナで何度か会ってますよ」


「うん、あの真面目で礼儀正しい人だね」


「まあ…ハルカナではそうですね」


「?」


「あの人は掴み所がないので、どう紹介すれば良いのか…」


 歴史の中では“空漠たる英雄”と呼ばれ、その正体は謎に包まれているクスタ。この謎多き英雄についてどう説明すれば良いのか咲楽は悩みます。


「呼んだか?」


 そんな会話に割り込む男の声。

 その男は、いつの間にかアクリの隣に座っていました。

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