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第125話 【ギルドの街ソエル】




 ギルドの街ソエル。

 この街が生まれるきっかけを作ったのはハルカナ王国にあります。


 ハルカナ王国に住む“ある男”は、戦場で家族を失いました。

 その男は復讐に燃え、戦うための組織を立ち上げます。それがハルカナ王国で最初に誕生した“ギルド”と呼ばれる組織です。


 男は初代ギルド総長となり、その組織を“革命ギルド・ソエル”と名付けました。


 初代総長はある日、防戦一方だったハルカナ王国に訴えたのです。護ることに特化していては帝都フリムには勝てない。こちらからも攻めなければいずれ滅ぼされてしまうと。


 しかし、いくら訴えてもハルカナ王国は守りの姿勢を崩しませんでした。その強固な意思こそが難攻不落のハルカナ王国を築き上げてきたのでしょう。


 それでも初代総長は納得しませんでした。

 ハルカナ王国に愛想を尽かせ、独立を決心したのです。


 ハルカナ王国の影に隠れ山脈の中で戦闘都市を形成し、戦う意思がある者を集め発展させた街。これが“ギルドの街ソエル”の起原です。




 ハルカナとソエル。

 両国は絶縁したように思えました。


 しかしその影には、小さな絆が隠されていました。

 それが現在のハルカナ王国国王と二代目総長の繋がりです。




 初代総長が独立する前、若き日の国王と二代目総長は親しい間柄でした。

 まだ子供だった二人はお互いの価値観に共感し、理想の世界を想像しながら世の行く末を語り合いました。戦争のない平和な未来、それが二人の理想です。


 初代総長が独立する日、総長の子である二代目総長もハルカナ王国を去ることになりました。


 それから数十年。

 ギルドの街ソエルは四大勢力に数えられるほど急成長し、世代は変わり二人はハルカナ王国国王と二代目総長となったのです。両国の長となった二人は、本格的に平和を目指し手を取り合いました。


 内通者としてギルドの街ソエルからはクスタ、ハルカナ王国からはある騎士が選ばれ、国王と総長は内通者を介して世界の終戦に向けて行動を始めます。


 しかし、簡単にはいかないのがこの世界でした。


 帝都フリムは暴走したように世界を蹂躙し、ハルカナは耐えるのが精一杯。ソエルにはフリムへの復讐に燃える者が多く、戦場は激化するばかり。


 血を流さない世界など所詮は絵空事。やはりどちらかが滅びなければ平和は訪れないと、二人は諦めかけていました。


 そんな停滞した戦況の中、咲楽がこの世界に訪れたのです。





 ソエルにある隠れた酒場“鬼の雫”

 店内では子供のような低身長の女性が一人、お酒を注ぐグラスを丁寧に磨いていました。


「うんしょ…」


 その女性は背伸びをして磨いたグラスを棚におさめます。

 身長は130センチと咲楽よりも低いですが、これでも二十代後半の大人。金色に輝く髪を後ろに束ね、人よりも長い耳が特徴的です。ドワーフの低身長とエルフの耳を受け継いだハーフ、それがこの酒場の亭主リリィです。


 コンコン…コン


 すると、酒場の扉からリズムを刻んだノックの音が聞こえました。


 時刻はまだ正午、酒場は開店していません。

 ですが特定の時間に決められた扉の叩き方をすれば、この酒場は店の扉を開けてくれます。


「………」


 扉に駆け寄り鍵を開けるリリィ。


「やあリリィ、ごきげんよう」


「クスタさんか…」


 訪問者はギルドの街ソエルを代表する八人の英雄の一人、情報屋のクスタでした。クスタを見上げたリリィは、あからさまに嫌な顔を浮かべます。


「何の用?」


「もしかして歓迎されてません?」


「この時間帯に来るお客は歓迎できないよ…ていうか、なにその喋り方」


「ハルカナから帰ってきたばかりなので、気にしないで下さい」


「そう…で、ご要件は?」


 リリィは不愛想な対応でクスタを店内に招きます。


「実は近々、大事な客人がこちらに来ます。その人の対応についてリリィに伝えたいことがあるのです」


「客人?誰のこと?」


「サクラです」


「サクラ…?」


 聞き覚えのない名前を繰り返すリリィ。


 ですがリリィは、咲楽が選んだ記憶封印解除の対象者です。


「…!」


 咲楽というキーワードで、リリィは忘れるはずもない恩人の存在を思い出しました。


「どうかしました?」


 リリィの様子を見てクスタはわざとらしく首を傾げます。


「え?あ、いや…」


「まさか英雄であるサクラのことを忘れていたなんて言わないでしょうね?」


「………」


 義理と人情に厚いソエルの人間が、咲楽の存在を忘れていいはずがありません。自分がそんな薄情な恩知らずに成り下がっていた事実にリリィは困惑していました。


「ご安心ください。俺もナキも総長も、世界中の誰しもがサクラのことを忘れてましたから」


「…は?」


「この世界の歴史からサクラの存在が綺麗さっぱり消えてるんです。不思議ですよね~」

 

「…」


 憎たらしい笑みを浮かべながら種明かしをするクスタ。ここでリリィは、自分がからかわれていることに気付きます。


「もう!回りくどい言い方しないで、一からちゃんと説明しなさい!」

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