第122話 【拠点での過ごし方(サクラ)】
二人の様子を見終えた咲楽は、倉庫から調理器具を引っ張り出し外の台所に並べました。
「さて、私は私のやるべき事。料理の試作をやりますか!」
図書館で借りた本を片手に調理を開始する咲楽。
目標はプレザントの食材だけで美味しい料理を作ることです。
今までは地球の優秀な食材や調味料に頼りすぎていました。プレザントの食材だけで絶品の料理を生み出すこと、それが出来なければプレザントの食文化が発展することはあり得ません。
ソエルの欠点である美味しくない食文化を変えるため、咲楽は気合を入れます。
「サクラお姉ちゃん。汚れた魔物の食べられる部位、解体終わったよ」
アクリが大量の魔物肉と倉庫の荷物を持って咲楽の元に駆けつけてくれました。
「お疲れ様です!仕事が早いですね、アクリちゃん」
「解体ならギルドで何度も経験してるから、任せて!」
得意げに鼻を鳴らすアクリ。
コロッケを作った時といい、アクリは肉の解体や食材の下処理などの手際は咲楽よりも早いです。力も地球人より強いので、重たい荷物も楽々持ち運べます。
「…あれ、なんでこの肉は水に浸かってるんです?」
咲楽は水槽の中で水に浸かっている、ハルカナ王国から支給された生肉を確認します。
「水の精霊石で作られた腐敗防止水だよ。食べ物とかを浸けておけば腐らずに保存できるんだ」
「なるほど…これがこの世界の生もの保存法なんですね」
魔法で生み出した殺菌効果のある水。
冷凍する手段のないこの世界の食料保存方法は、水の精霊石によって生み出された水に食材を浸けて腐敗を防ぐものでした。
「うーん…」
咲楽は水に浸かっている肉を見て唸ります。
(肉の色が白くなってる…この保存法だと味がどんどん劣化しちゃう)
早速、この保存法の欠陥を見つけた咲楽。
これでは肉自体の旨味が水に溶けてしまい、美味しさのランクを下げてしまうのです。美味しさに拘らない世界だからこその雑な保存法でした。
(戦時中に編み出された苦肉の策ってやつですね…氷の精霊石で冷凍庫が作れれば解決するんだけど。それとも、この肉を美味しく調理する料理法を編み出した方がいいのかな)
美味しい料理を作るための課題は、やはり容易ではないようです。
※
日が沈みかけ、ある程度の料理の試作を済ませた咲楽。
「うん…いい感じになった」
完成したスープの味を確認した咲楽は調理を一区切りとしました。
「良い匂い~」
「腹減ったぞ」
料理の匂いに誘われ咲楽の元に足を運ぶアクリとキユハ。
「もうちょっと煮込んだら完成なので、もう少しだけ………ん?」
二人にそう返事をした咲楽は、あることに気付きます。
「…アクリちゃん、汗臭い」
「え?」
「キユハちゃんは泥で汚れてますよ」
「…」
激しい訓練で汗を流したアクリ。
魔法の実験で土汚れが付いたキユハ。
二人共、ほどほどに汚れていました。
「確か倉庫の中に水を溜める桶がありましたよね…」
咲楽は倉庫に置いてあった、三人が楽々入れるくらいの大きな貯水槽があったことを思い出します。
「食事の前に、みんなでお風呂に入りましょうか」