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第120話 【拠点での過ごし方(アクリ)】




 咲楽は自室のベッドに倒れ込みます。


「疲れた~!」


 地球から物資の調達を終え、ゴブリンの魔物騒動も一段落。

 これで咲楽の目先の予定は済みました。後は次の街である“ギルドの街ソエル”に到着するまでゆっくりするだけです。


(…ソエルに着く前に料理の試作をしたいな。向こうに着いてからの予定とか、地球に帰るタイミングも考えないと)


 それでも咲楽の考えることは山住です。したいことをしているので苦には感じませんが、たまには気分転換もしたくなります。


「…アクリちゃんとキユハちゃんはどう過ごしてるかな」


 咲楽はこの拠点にいるアクリとキユハの様子を見に行くことにしました。





 宿の外に出ると、アクリは木刀を持って素振りをしています。


「アクリちゃん、剣の訓練ですか」


「あ、うん!」


「訓練は続けてていいですよ」


 咲楽は声をかけつつ、アクリに素振りを続けさせます。


「努力家ですねぇ。そこをナスノさんたちは評価したらしいですが」


 アクリの剣技は騎士隊長たちにも好評でした。

 それは生まれ持った才能だけではなく、地道な鍛錬の賜物です。しかもアクリは咲楽と共に二度も死線を乗り越えたので、その影響も多分に受けています。


「…サクラお姉ちゃんって、強いよね」


 素振りをしながら咲楽に話しかけるアクリ。


「え?」


「ナスノさんと引き分けてたから…あれはすごい技術だったよ」


 ハルカナ王国で士官学校の見学をした時、咲楽とアクリは流れでナスノと剣による模擬戦を行いました。

 アクリはナスノ相手にまったく歯が立ちませんでしたが、咲楽は善戦しナスノの技を二回も受け流しています。才能のない者には咲楽が弱く見えていたでしょうが、アクリやナスノはその洗練された技術を見逃しませんでした。


「良かったら私の模擬戦の相手を…」


「無理です無理です!」


 アクリの誘いを全力で断る咲楽。


「私はすっごく弱いので」


「え、でも…前の模擬戦では」


「あの時は私とナスノさんが対等に戦えるよう、リアくんが操作しただけです」


「操作…?」


 咲楽が何を言っているのか分からないアクリ。


「リアくんがナスノさんを挑発して、技を出させるよう誘導してたんです。技を使わないと私に勝てないとか嘘を言って…」


「でもどうして…技を使うナスノさんの方が手強いでしょ?」


「私が使える剣技“花ノ流”は技の対処が出来るだけなんです」


「?」


「あの時ナスノさんが使用した二つの技“風斬り”と“円旋”の対処法を私は知ってました。だから完璧に対処することが出来たんです」


 咲楽の身体能力はこの世界で最弱です。

 戦時中そんな咲楽の生存率を上げる手段は、戦場で良く使われる各国の技の対処法を習得することでした。その技術を集結させたのが“花ノ流”という剣技なのです。


「ナスノさんが技を使わず力で攻めてきていたら、三分も耐えられなかったんですよ」


「そうだったんだ…」


 話ながら訓練していたアクリは、素振りの手を止め休憩を挟みます。


「はぁ……はぁ…ふぅ」


「…」


 息を切らしているアクリを見て、あることに気付いた咲楽。


「アクリちゃん、呼吸はもっと意識して整えた方がいいですよ」


「え?」


「正常な呼吸は平常心を維持し集中力を高めます。切れた息を素早く整えることは戦いの中でとても重要なことなのです」


 咲楽は過去に教えてもらった仲間の指導をアクリに教授します。


「毎日欠かさず深呼吸の練習をするといいですよ。これは仲間からの受け売りです」


「英雄の皆さんが…」


 アクリは意外に思っていました。


「英雄の皆さんって人間離れした強さなのに、細かい技術も大切にしてるんだね」


「ええ、強い人ほど小さな技術を疎かにしません。私は弱いので、こういった地味な技術を仲間から学びました」





 咲楽に戦い方を指導した英雄は四人。


 剣術が得意なリア。

 対人戦の達人オーガル。

 魔力操作に長けたエトワール。

 実戦経験の豊富なクスタ。

 

「とにかく守そう。敵が仕掛けてきたらまず半歩下がるんだ。後方に下がることで見えてくる脅威がある。サクラはとにかく生き残ることだけを考えて剣を握るんだ」


「とにかく攻めろ。相手の攻撃は躱すんじゃない、掠ませるのだ。掠り傷は攻撃を最小限に回避した証。肉を切らせて敵を討つ、攻めの姿勢こそが戦場の基本だ」


「高潔に戦いなさい。魔力とはあらゆる自然に宿っている。人の体も大自然の一部、魔力をその身に宿すことが可能。誠実な心を持ち、女神様に選ばれた名誉を誇りに思い戦いなさい」


「卑怯な手を使いましょう。情報は最大の武器、敵の弱点を突くことこそ最高の戦術なのです。また環境を利用することも視野に入れ、卑怯な手を見つけたのなら迷わず使いなさい」





「守れと言われたり攻めろと言われたり、実直に戦えと言われたり卑怯な手を使えと言われたり……みんな個性的なのでいつも意見が衝突していましたよ」


 途方もない実力者である英雄は我が強く、自分の意思を曲げない強情者の集まりです。意見の衝突などは日常茶飯事でした。


「最初は自己流以外の戦術に対して否定的でしたが、旅の中でお互いを認め合い各々の戦術を参考に戦い方を学んでいくようになりました。どんな場面でも臨機応変に対応し、命を大事にすることを優先する…そうして生まれたのが“花ノ流”なのです」


 英雄たちの戦い方を採用した“花ノ流”には確かな実用性があり、その技術は何度も咲楽を危機的状況の中から救ってくれました。


「みんなで戦術を話し合っているうちに、リアくんやハクアくんもめきめきと成長してましたよ」


「…!」


 成長したのは咲楽だけではなく、むしろ旅を共にしてきた英雄たちです。戦術について口論を続けているうちに、まだ未熟だったリアを騎士団長へと出世させるまでに成長させました。

 全ての英雄が、最初から強かったわけではありません。


「サクラお姉ちゃん!もっと話を聞かせて!」


 英雄譚を聞いて胸を高鳴らせるアクリ。

 自分も同じように咲楽から戦術を学べば、憧れの騎士団長リアのように強くなれるかもしれない。アクリの向上心は激しく燃え上がります。


「そうですね~…いっぺんに教えても混乱すると思うので、少しずつ話しますね」


 咲楽はそう微笑みながら、旅の思い出をアクリへ語り聞かせました。

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