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第119話 【拠点がピンチ?】




 咲楽たちが勝利を祝っている影。


「グルル…」


 魔物同盟の襲撃を受けた汚れた魔物は、数匹だけ生き延びていました。

 汚れて理性を失っていても生物としての生存本能は失われていません。奴らは気配を消しながら魔物たちから距離を置き、傷を癒すため安全に食料が確保できる場所を求め彷徨っていました。


 生物の気配があり、強い気配のない、安全に餌として食らいつける獲物。


 そうして汚れた魔物たちが目を付けた獲物は、咲楽の拠点であるグランタートルでした。





 場所は変わって、移動拠点グラタンの背中にあるキユハの研究所。


 ガタガタ…


「…」


 急に地面が小刻みに震え研究の手を止めるキユハ。


「…騒がしい、雑音」


 集中力を切らされたキユハは不機嫌そうに研究所の外に出ます。


「あ、キユハさん!」


 外では同じく異変に気付いたアクリが周辺を確認していました。


「何の騒ぎだ…?」


「あっちに汚れた魔物が!」


 アクリが指さす先から、汚れた魔物四体がゆっくりとこちらに近付いて来ていました。グランタートルのグラタンは奴らの脅威を察知して体を震わせていたのです。


「あれが汚れた魔物か…初めて見た」


「ど、どうします?」


「サクラはいないのか?しょうがないな」


 キユハは面倒くさそうにポケットに手を突っ込みます。


「小娘、下がってろ。僕が駆除する」


「…私も戦います!」


 短剣を携え戦う意思を見せるアクリ。

 その姿を見て、キユハは感心していました。


「…最初のリアよりは勇ましいな」


「え?」


「何でもない、些末。油断するなよ」


「はい!」


 そう言って臨戦態勢に入る二人。

 まずはキユハがポケットから取り出したAランクの精霊石を、汚れた魔物に向けて放り投げました。


“叩きつぶせ”





 再び場所は変わってゴブリンの拠点。

 ノームが今後の魔物同盟について、魔物の代表たちと話し合っていたその時。


 ドゴーン!


 とてつもない衝撃と轟音が大地を揺らしました。


「な、なんです?地震ですか!?」


 突然の地響きに咲楽と魔物たちは大慌てです。

 プレザントでは自然現象で地震が発生することは滅多にありません。この振動は何か、大きなものが地面を叩きつけたような揺れでした。


「なんだろう…震源はグラタンの方からだよ」


 ノームの言葉にハッとする咲楽。

 留守中の拠点で何かあったのではないか、咲楽は気が気ではありません。


「ノームくん、クロウさん、拠点に戻りましょう!」


「りょーかい」


「ククグ…!」


 咲楽とノームは急いでクロウの背に跨ります。


「それでは魔物の皆さん、お疲れ様でした!」


 魔物たちに向けて一礼した咲楽はクロウに合図を出し、拠点に向かって飛び立ちます。


「…!」


 上空から拠点の方向を凝視した咲楽は、グラタンがいる付近で見覚えのある人型の巨像を発見しました。


「あれは…キユハちゃんのゴーレムだ」


 それは前の旅で何度も目にしたきた、キユハ特製の戦闘用ゴーレムです。ゴーレムは手に持った巨大な石柱を地面に振り下ろした態勢のまま佇んでいます。


「さっきの地響きはキユハちゃんの仕業でしたか」


「うわ…あんな土人形、どうやって作るんだ…」


 そのゴーレムを見て唖然とするノーム。

 ゴーレムの体長は300メートル以上と、日本にある東京タワー並みの高さです。こんな巨大なゴーレムは、土の精霊であるノームが咲楽の力を借りたとしても生み出せません。


「キユハちゃん!アクリちゃん!」


 拠点に到着した咲楽はグリフォンから降りて状況を確認します。


「サクラか…」


「何があったんです?」


「きったない魔物が来たから、返り討ちにした。それだけ」


 適当な状況説明をするキユハ。


「汚れた魔物ですね…大丈夫でしたか?」


「無問題、魔物ごときに手間はかからない。この小娘もがんばってたぞ」


 キユハは汚れた魔物の死体の前で息を切らしているアクリを指さします。


「はぁ…はぁ……私も一体だけ倒せたよ!」


「怪我はないですか?」


「うん!」


 アクリは勇ましい笑みを浮かべます。

 どうやら汚れた魔物は問題なく駆除できたようです。


「…残党が逃げてこっちに来てたみたいだね」


 小声で咲楽に事の発端を伝えるノーム。

 倒れている汚れた魔物に見覚えがあったのでしょう。


「索敵に漏れがあったんだ…僕の失態、ごめん」


「でも問題なかったみたいですね、キユハちゃんがいればこの拠点は安全です」


「あいつの気配はサクラの仲間の中でも人並み…汚れた魔物は脅威として察知できなかったんだ」


 汚れた魔物が生き延びたのは幸運だったのかもしれませんが、獲物としてグランタートルに目を付けてしまったのが運の尽きでした。


 もし拠点にリアやクスタのような実力者がいれば、汚れた魔物は気配を感じ取りグラタンに近づかなかったでしょう。ですがキユハの真価は魔法、アクリはまだ未熟な少女。奴らはこの二人を脅威として感知できなかったのです。


「これでやっと研究に戻れる」


「汚れた魔物は汚れてない部位なら食べれるんだよ」


 キユハは欠伸をしつつ研究所に戻り、アクリは汚れた魔物の死体解体を始めます。汚れた魔物の危機が迫ったというのにものともしていません。


(こっちは魔物同盟を活用してやっと駆除したのに、サクラの仲間からすれば些事か……あの弱かった少女は見違えてる。やっぱりサクラの仲間って…変)


 ノームは心の中で、咲楽の仲間たちがもつ異常性を再認識しました。


「えっと…これで本当に解決でいいんですよね?」


「うん、もう汚れた魔物の気配はないよ。お騒がせしました…」


 咲楽に深く頭を下げるノーム。

 今後も汚れた魔物と出くわすことなるでしょうが、これで今回の魔物騒動は一件落着です。

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